戦争と広告 第二次大戦、日本の戦争広告を読み解く 書評|森 正人(KADOKAWA)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月25日 / 新聞掲載日:2016年4月15日(第3136号)

戦争と広告 第二次大戦、日本の戦争広告を読み解く 書評
時宜を得た警鐘と提言 
メディア研究者のお株を奪う優れたメディア史研究に

戦争と広告 第二次大戦、日本の戦争広告を読み解く
著 者:森 正人
出版社:KADOKAWA
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本書のタイトルからは、「欲しがりません勝つまでは」「ぜいたくは敵だ」「進め一億火の玉だ」などの戦時標語を連想する人もいるかもしれない。

しかし、本書の言う広告は「人々に広く告げ知らせる」という最も広義の概念で、メッセージを伝える媒介物(メディア)は、すべて広告とみなされる。そのため、文字テクストもさることながら、写真やポスターやイラストなどの様々な画像・図像や展示物などの物に分析の焦点が当てられている点が本書の特徴だ。

多くの言葉を費やした説得よりも、たった一枚の写真の方がより大きな影響力を与えることは周知の事実である。ビジュアルなものが、とりわけエモーショナルなレベルに効果的に訴えかけるものであることもよく知られている。目の前に提示された具体的な「物」も、大きなインパクトを与える。

日中戦争時に行われた各種の戦争博覧会においては、敵から奪った軍用品や兵器などの実物が展示された。それは、日本軍の強さを示すと同時に、兵器を奪われたり置いて逃げたりする中国軍の弱さと「愚かな中国人」を示す意味があった。味方を称揚し敵を貶めるのが、戦争プロパガンダの基本だが、こうしたことを通して「聖戦」の物語が作り上げられていくのである。

また、そこでは戦場を疑似体験できるように「模擬野戦陣地」や戦地のジオラマが造られており、「戦地」と「銃後」の物理的な距離を一気に飛び越え、国民の総動員体制の心理的一体感を実感させる。

『写真週報』や『アサヒグラフ』を中心にした雑誌記事の分析では、「聖戦」を支える戦う兵士の身体がどのように視覚化されているかが、重要なポイントとなる。そこでは、「アジアの盟主」にふさわしいその力強さが最大限強調される。

また、農村と都市における模範的生活を中心に、銃後における国民の心構えと「道徳性」が、どのように視覚化されていったが明らかにされる。そこで紹介されている個々の事例は、今の時点から見ると「何と愚かな!」と驚きあきれるものばかりだが、これらのいじましい振る舞いがまぎれもない当時の日本人の「現実」だったのである。

こうして、“操作された視覚″としての「視覚性」と物が持っている“特定のメッセージを伝える機能″である「物質性」の二つの側面から、ある特定の物語(「聖戦」「大東亜共栄圏」)が作り上げられていくプロセスが明らかにされていく。その著者の手さばきは見事である。

また、最終章では、代表的な博物館展示と映画作品を中心に「聖戦」が今現在どのように視覚化され再記憶化されているかの検討がなされている。そこに共通して見られるのはいわゆる「歴史修正主義」的な方向性である。

ここでの議論は、「歴史修正主義」や「歴史認識」が問題となっている現状に対する時宜を得た警鐘と提言となっている。著者が言うように、歴史解釈というのは意味付けと物語化によって「特定の物語」が作り上げられていくことである。そこで重要なのは、「別の物語」は巧妙に排除される点である。「不都合な真実」は切り捨てられるのである。

本書には多くの写真や図版が用いられているが、表紙カバーをのぞいてすべてモノクロである。中にはサイズも小さく鮮明とは言えないものも少なくない。ポスターなどは、色彩もまた重要なメッセージとなる。実物のままの復刻を望みたいところだが、これは本書のようなサイズの出版物には「ないものねだり」ということになろう。

著者の専門は地理学だと言うが、本書はメディア研究者のお株を奪う、優れたメディア史研究になっている。
この記事の中でご紹介した本
戦争と広告 第二次大戦、日本の戦争広告を読み解く/KADOKAWA
戦争と広告 第二次大戦、日本の戦争広告を読み解く
著 者:森 正人
出版社:KADOKAWA
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