仏師たちの南都復興 鎌倉時代彫刻史を見なおす 書評|塩澤 寬樹(吉川弘文館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月25日 / 新聞掲載日:2016年4月22日(第3137号)

仏師たちの南都復興 鎌倉時代彫刻史を見なおす 書評
従来の造像史の見方を覆す 
仏教史全体に関わる問題を提起

仏師たちの南都復興 鎌倉時代彫刻史を見なおす
著 者:塩澤 寬樹
出版社:吉川弘文館
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今日、かつての鎌倉新仏教中心論はほぼ全面的に論破され、中世を顕密仏教を中心に見直す方向で、仏教史の再構築が進められている。その際、治承四年(一一八〇)の平家軍の進攻に伴う南都焼亡後の復興が、仏教興隆の大きな活力となったことは、ほぼ間違いのないことである。本書は美術史の観点から、南都の中核をなす東大寺と興福寺の復興造像を取り上げ、仏師たちの活動を再検討していく。

この時代の仏像彫刻と言えば、ただちに運慶・快慶らの名が思い浮かび、その剛健で写実的な作風が新仏教に対応するものとして高い評価を受けてきた。しかし、仏教史の見方が転換する中で、このような慶派中心の見方も再検討が必要とされ、当時の実際に即した形で仏像彫刻のあり方を見直すことが要請されている。本書はそれに応えようとする意欲的な研究である。

本書は、Ⅰ「南都・京都・鎌倉―復興と朝廷・幕府・寺家」、Ⅱ「南都復興の経過」、Ⅲ「仏師たちの南都復興」、Ⅳ「南都復興の造像世界」の四章、ならびにプロローグ、エピローグからなる。Ⅰでは、南都復興に朝廷・幕府・寺家の権門が絡みあう状況が概観される。Ⅱでは、南都復興と造像の展開を四期に分けて通観する。Ⅲでは、本書の中核となる仏師たちの問題に立ち入り、各期の主要な造像における仏師の選定とその背景を探る。最後にⅣでは、それまでの考察をもとに、当時の南都の造像世界の全体像を示す。

このような本書を貫く問題意識はプロローグに明瞭に示されている。そこでは、本書の視点として、ア、「南都復興造像全体を扱う」、イ、「当時の視点や評価を探る」、ウ、「社会と造像の関係を見る」、エ、「特定の仏師に視点を偏らせない」という四点を挙げる(六頁)。これらはいずれももっともではあるが、また困難を伴うものである。従来の慶派中心観の理由の一つは、その後の度重なる南都の火災の中で、慶派の作品のみが残ったという偶然によるところが大きい。

それだけに、当時の視点や評価に遡り、その全体像を明らかにするためには、現存する仏像の解明だけでは不十分で、失われた過去の実態を明らかにしなければならない。それには、関連する文献を精査するとともに、当時の社会情勢の全体に目を配り、偏見を持たずに仏師たちの関係を見極めていく必要がある。著者はその丹念な作業によって当時の造像を明らかにする。それによると、定朝の正系である円派・院派・奈良仏師の三派の仏師たちがそれぞれ権門とつながりながら、バランスを取って造像に携わっているというのである。著者はこれを「正系三派体制」と呼ぶ。運慶らの慶派は奈良仏師の康慶に連なる。当時の社会的評価からすれば、院派の院尊がもっとも評価が高く、「次いで康慶、明円、運慶といった顔ぶれ」(二三二頁)になるという。

これらの三派には作風の相違があり、円派・院派は伝統的、保守的であり、奈良仏師・慶派の系統はいわゆる鎌倉新様による新しい作風を示している。造像面での南都復興は、このような「二つのタイプが混在していた」(二七七頁)。それがその後も継承される。このことは、従来の慶派中心の造像史の見方を大きく覆すものである。

著者は、そのような多様性を持ったものとして南都の造像を見直し、Ⅳ章では、当時の興福寺・東大寺の造像を復元して、前者を日本彫刻史ギャラリー、後者を東アジア彫刻史ギャラリーと呼んで、大きなスケールで展望している。Ⅳ章はそれまでの議論を総括し、もっとも中核となるところであるが、頁数の不足のためにやや概括的であり、今後さらに詳細に展開されることを期待したい。他にも、当時の仏教の宋風導入の中で、造像に関しては必ずしもそう言えないこと、慶派中心に展開する鎌倉と正系三派体制が維持される南都・京都の違いなど、仏教史全体に関わる注目される問題が提起されている。
この記事の中でご紹介した本
仏師たちの南都復興  鎌倉時代彫刻史を見なおす/吉川弘文館
仏師たちの南都復興 鎌倉時代彫刻史を見なおす
著 者:塩澤 寬樹
出版社:吉川弘文館
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「仏師たちの南都復興 鎌倉時代彫刻史を見なおす」出版社のホームページはこちら
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