浅草公園 凌雲閣十二階 失われた〈高さ〉の歴史社会学 書評|佐藤 健二(弘文堂)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月25日 / 新聞掲載日:2016年4月22日(第3137号)

浅草公園 凌雲閣十二階 失われた〈高さ〉の歴史社会学 書評
民間学の可能性とは何か 
凌雲閣の記憶と記録、浅草/東京の変容

浅草公園 凌雲閣十二階 失われた〈高さ〉の歴史社会学
著 者:佐藤 健二
出版社:弘文堂
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民間学の可能性とは何か。

この問いは、二〇一六年の現在、いささか皮肉に響く。昨年六月の文部科学省の通知に端を発する文系学部廃止の騒動は、さまざまなメディアを通じて今も波紋を広げている。廃止は誤解という弁明が追加されたにせよ、少子高齢化が続く状況下で、文系諸学の行方は予断を許さない。文系学部とりわけ文学部の諸学は、「民間でおやりなさい」と言われたとき、どのように民間学を受けとめるのだろう。アカデミズムの塔の住人という自省は避けられないし、塔からの眺望という構造に無自覚であることは、もはや許されない。

くだんの問いは、鹿野政直(『近代日本の民間学』一九八三)の問題提起に具体的関心を持つかどうかにかかわらず、つまり民俗学や近代史や社会学などの分野に限らず、研究という場全体の課題と化している。それは産学連携の要請がつきまとう理系も例外ではない。

本書は、民間学を直接に問う研究領域(アカデミズムの場)において、民間学についてのきわめて具体的な事例と観察と分析とを通して、その可能性を描き出している。その点で、現在の大学や研究をめぐるコンテクストにおいて、超域的な問いとして潜在する課題に向き合うためのレッスンとしても働く。

書名に即して本書を要約すれば、明治二十三年(一八九〇)に建てられ、大正十二年(一九二三)の関東大震災で崩壊した凌雲閣(浅草十二階)の記憶と記録を見ているだけでも楽しくなる多くの図像や文献で総ざらいしつつ、それが建っていた浅草/東京という空間の変容を追うことで「都市の近代の集合的な経験のようなものに光をあて」る試みということになる。この要約からは、凌雲閣・浅草が、建築、地理、社会学、民俗学、文学、近代史、芸能、大衆文化などなど、文系諸学に関わる対象として考察され、それら諸言説を歴史的総合的に分析したアカデミックな知の愉楽に満ちた仕事が連想されるだろう。もちろん、その味わいも深い。ただし、本書の面目というなら、むしろ四章の構成に滲んでいる。

第一章 塔の視覚と想像力―浅草公園・十二階凌雲閣 

第二章 民間学者としての喜多川周之 

第三章 「十二階凌雲閣」問わず語り 

第四章 十二階凌雲閣の記憶と記録

第三章の「問わず語り」とは、喜多川の「問わず語り」、しかも著者がヒアリングや著作を「編集・再構成」したそれである。最初と最後の二章は、凌雲閣の履歴の分析や記録を主とする内容で、それらに挟まれた二つの章は、喜多川の「視覚と想像力」および喜多川についての「記憶と記録」とも言うべき内容になっている。つまり、凌雲閣についての分析や記録によって長谷川という対象を包んだような構成で、しかも、皮と餡の関係にある両者が「視覚と想像力」や「記憶と記録」をターゲットにする点で響きあう。巻末には「喜多川周之 著作および活動の目録」が付され、喜多川に軸足を置けば、『喜多川周之 失われた<民間学>の可能性の再建』といった評伝の仕事でもある。

しかしながら、餡だけでは饅頭にならない。喜多川のライフワークであった凌雲閣研究を引き受ける意味でも、凌雲閣と喜多川の双方を生態的な関係として描き出す上でも、凌雲閣に注がれた喜多川のまなざしの多様性ではなく、多様性として現れるまなざしの奥行を覗きこむためにも、著者は凌雲閣それ自体についての徹底的な資料批判を自ら遂行している。

アカデミズムに身を置く職人としての仕事の成果として現れた本書は、アカデミズムにも、アカデミズムによって一方的に規定される類の民間学にも還元できない、アカデミズムと民間学という二分法を失効させる学知への志向の実践として映る。それをこそ民間学の可能性と呼んでもいい。あるいは、著者の言う歴史社会学というアカデミズムの実践と呼んでもいい。しかし、いずれにせよ、その仕事の味を知るためには、実際に本書を手にとって咀嚼するしかない。
この記事の中でご紹介した本
浅草公園 凌雲閣十二階 失われた〈高さ〉の歴史社会学/弘文堂
浅草公園 凌雲閣十二階 失われた〈高さ〉の歴史社会学
著 者:佐藤 健二
出版社:弘文堂
「浅草公園 凌雲閣十二階 失われた〈高さ〉の歴史社会学」は以下からご購入できます
「浅草公園 凌雲閣十二階 失われた〈高さ〉の歴史社会学」出版社のホームページはこちら
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