「白い光」を創る 社会と技術の革新史 書評|宮原 諄二(東京大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月26日 / 新聞掲載日:2016年4月22日(第3137号)

「白い光」を創る 社会と技術の革新史 書評
技術論を超えた文明論 
4つの白い光のイノベーション

「白い光」を創る 社会と技術の革新史
著 者:宮原 諄二
出版社:東京大学出版会
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本書が読者にさまざまな形で「考える場」を提供しているのは、単なる技術論の枠組みを超えて文明論になっているからに違いない。けだし「明かり」の世界は「技術」と「人」「社会」が深く関わり合いながら歴史を刻み、人類の誕生間もなくから最重要の関心事だった。

なかでも「白い光」の実現は、照明という生活手段の獲得と相まって大きな問題提起としてのしかかった。その間、700万年前の太陽からの「白い光」の享受を別にすれば、白熱ガス灯、白熱電球、白熱蛍光灯、白色LED(発光ダイオード)の4つの光が「白い光のイノベーション」として明かりのニーズに応じてきた。ただ驚くべきは、最初の「白色光」が点されてからもまだ150年程度に過ぎず、それ以前のものは黄色だった。いや、もっと正確に言えば、あのアリストテレスは太陽の光を燃える炎と違う「白い光」と捉えていたものの、それ自体がさまざまな色の光から構成されていることはニュートンの発見まで知らなかった。

人の目が「白い」と感じる光も千差万別。私どもは青、緑、赤の3原色を組み合わせれば白色になると教えられてきたが、現在の白色LEDは補色の関係を利用して「黄+青紫」の組み合わせでも白色光を得ている。さらに色の世界には「色順応」と呼ばれる、慣れると同じ色に見えてくる現象がある。ニュートンはこれを知らなかったが、同時代の物理学者ホイヘンスは知っていた話が文中に紹介されている。こんな状況の下で北半球中心とはいえ色温度を基準にした「CIE昼光」と呼ぶ一種の国際標準が制定されたことは喜ばしい。

炎の明かりの大幅改善が進んだのはルネサンス期以降のこと。照明、暖房、調理の3機能を担った炎は、用途に応じて専門分化が進む。実際、フランスの科学者ラヴォアジエの燃焼理論に沿って開発された「アルガン・ランプ」(オイル・ランプの一種)は史上類を見ない輝きを発したばかりか、燃料としての蜜〓、鯨油、石油などが新産業としての地歩を築く。メルヴィルの名作『白鯨』に「豪華な結婚式を見たければニュー・ベッドフォードにゆくがよい。家々の瓶には鯨油があふれ、夜な夜な、身の丈ほどある鯨脳油製のロウソクに惜しげもなく火がともる」とあるのを思い起こされたい。

同時に、明かりの産業がシステム化、インフラ化の様相を強めるのも見逃せない。ガス灯ひとつとっても、ガス灯単独では使い物にならない。ガス配管を通じて社会のインフラシステムの端末に組み込まれて、はじめて機能するからだ。と同様に、白熱電球の最後の発明者とされるエジソンが特許や利権を独り占めできたのも、炭素フィラメント電球と並行して発電機や配電方式の実用化に取り組んだことが功を奏した。

一方、個々の器具の実装面でも、光を発する部分を透明容器中に閉じ込め、明るさの確保や安全性の維持に役たてた。ロウソクやオイルランプはその嚆矢となったが、以後、白熱ガス灯、白熱電球、白色LEDなどにも引き継がれている。このことは人々に技術の連続性を教えている。

最後に、ノーベル物理学賞の対象にもなった白色LEDの源泉、青色LEDについては、「青への渇望」が開発者たちを後押しした感が強い。著者が言う「成功すれば大きな利益と社会的な名声を得ることができるテーマとは、誰もが望んでいるけれどもまだ誰も成功しないテーマである」という言葉は、正鵠を射た見方である。そして、この一大成果が日亜化学工業時代の中山修二氏のセレンディピティ的幸運によってもたらされたこと、また同社がもともと蛍光体専門メーカーとして蛍光体技術に熟知した企業であり、補色の作用に気づく企業風土があったことに着目している。願わくば、中村氏と拠点を別にして青色LEDの研究に取り組んできた赤崎勇氏グループの成果にも、もう少し触れていただきたかったが、これは隴を得て蜀を望むようなものか。

いずれにせよ、日本発の青色LEDの実用化によってもたらされた「固体照明革命」の意義は大きく、今後の「白い光」技術の展開にも期待がかかる。
この記事の中でご紹介した本
「白い光」を創る 社会と技術の革新史/東京大学出版会
「白い光」を創る 社会と技術の革新史
著 者:宮原 諄二
出版社:東京大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「「白い光」を創る 社会と技術の革新史」出版社のホームページはこちら
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