めずらしい花 ありふれた花 書評|カルメン・L・オリヴェイラ(水声社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月29日 / 新聞掲載日:2016年5月6日(第3138号)

めずらしい花 ありふれた花 書評
詩人ビショップとパートナー ロタの関係を軸に描いた評伝

めずらしい花 ありふれた花
著 者:カルメン・L・オリヴェイラ
出版社:水声社
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本書は一九五〇年代から六〇年代にかけて、十五年ほどブラジルに暮らしてピュリッツァー賞を受賞した米国の詩人エリザベス・ビショップと、その時期の彼女のパートナーであり、最大の擁護者であり庇護者でもあったブラジル人女性カルロタ・マセード・ソアーレスの関係を軸に描いた両者の評伝ととりあえずは呼べる。ただし、綿密な考証と引用の上になりたってはいるものの、登場人物の内的独白に入りこんでいくなど、凝った小説的な書き方になっている不思議な味わいの作品である。有名なのはむろんビショップのほうだが、この本では、シャイで陰気で、激しいアルコール依存症のあるビショップを、度重なるスランプから救い出してもり立てていくカルロタ(通称ロタ)という人物のほうに明らかに焦点があり、自信に満ち外交的で、その人間的魅力と迫力で人を動かしていくこのエネルギッシュな女性の強烈さが作品を引っ張っていく。ふたりが暮らした一九六〇年代のブラジル、とくにリオ・デ・ジャネイロの人間関係が生き生きと浮かびあがり、その時代のブラジルのクロニクルとしても興味深いものになった。

名家出身のディレッタントだったロタは、詩人としての方向性を見失ってブラジルに流れついた四十代初めのビショップを励まして執筆に専念できる環境を整えてやる。やがてロタは、州知事にその美的センスをかわれ、海岸埋め立て地をリオ最大の公園として整備するプロジェクトのリーダーに抜擢される。リオ市内再開発の目玉事業である。彼女は、市民のレジャーという新しいコンセプトに基づいて都市生活の品質を向上させるような新時代の公園を構想する。これが今年のオリンピックでも会場として利用されるフランメンゴ公園である。希望にあふれたロタの活動ぶりに刺激されるようにしてビショップも再生し、ブラジル時代の作品で名声を確立していく。しかし、凡庸なアイディアで抵抗する政治・官僚組織との対立にロタが忙殺されていくにつれ、ふたりの間の関係は行き違いが多くなり危機に瀕していく。そして、十年近くの年月を費やしてようやく公園が完成すると同時に、かつては自信と魅力に満ちあふれていたロタは急激に失墜していく。

豊富な図版とともに一読して強烈に感じるのは、この時代のブラジルにあった驚くべき革新的な美的感覚である。伝統とかフォルクロール的なものに拘泥せずに、創造的なもの、モダンなもの、イカした新しいもの、新時代の都市生活を作ろうとする激しい意欲である。新首都ブラジリアしかり、サン・パウロのイビラプエラ公園しかり、ボサノヴァしかり。エリート趣味とも言えるが、それがたしかに現在のブラジルの都市では偉大なモニュメントとして結実して、都市景観と美意識を支える財産となっている。東京では昨年来、ブラジル・モダニズム建築の基礎を作ったニーマイヤーやボ・バルディの大規模回顧展が開催されたが、その周辺で他にも偉大な才能たちが多数花開いていたことがよくわかる。また、ブラジリアの建設がどれほど奇跡的なバランスの上で成り立ちえたのか、とも思い知らされる。ブラジルはモダン建築の宝庫。今度リオに行ったら、フラメンゴ公園には必ず立ち寄ろうと思う。

訳者はビショップ研究家だが、二十世紀半ばのブラジルの政治・文化状況について、細密な注をつけた。明らかに必要な注だった。(小口未散訳)
この記事の中でご紹介した本
めずらしい花 ありふれた花/水声社
めずらしい花 ありふれた花
著 者:カルメン・L・オリヴェイラ
出版社:水声社
以下のオンライン書店でご購入できます
「めずらしい花 ありふれた花」出版社のホームページはこちら
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