第159回 芥川賞・直木賞 決定 高橋弘希氏「送り火」、島本理生氏『ファーストラヴ』|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月27日 / 新聞掲載日:2018年7月27日(第3249号)

第159回 芥川賞・直木賞 決定 高橋弘希氏「送り火」、島本理生氏『ファーストラヴ』

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ファーストラヴ(島本 理生)文藝春秋
ファーストラヴ
島本 理生
文藝春秋
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7月18日、東京・築地の新喜楽で第百五十九回芥川賞と直木賞の選考会が行われ、芥川賞は高橋弘希氏の「送り火」(文學界5月号)、直木賞は島本理生氏の『ファーストラヴ』(文藝春秋)への授賞が決定した。

先に決定した芥川賞では選考委員の島田雅彦氏が会見し、受賞作について「高橋さんの過去の候補作のことを強烈に覚えている選考委員がいる中、今までよりまた一歩進化した作品であるという評価があった。一つひとつの言葉に非常にコストを掛けていることがありありと伝わって来て、はっきり言って最も読みにくい小説ではあるが、その読みにくさが何に由来するのかを複数回読んで確かめずにはいられない気持ちにさせる作品でもあった。決して予定調和に進まない意外性があり、言葉を使って別世界を構築していくというフィクション本来の醍醐味を十分に示してくれている快作ではないかという意見が説得力を持ち、授賞となった」と評した。今回の候補作の中には、候補作発表の直後に無断引用問題が明らかになった北条裕子氏の「美しい顔」(群像6月号)があり、普段以上に世間の関心を引いていたのもまた事実である。島田氏はこの作品に対する選考に関し、「この件については、選考委員の皆さんはそれぞれ独自に状況を把握しておられ、その上で議論が行われた。いわゆる盗用疑惑ということに関しては、法的な問題にまでは至らないケースであると考えるというのが共通の認識だったが、ただ、そうであっても、参照引用した者の態度というか誠実さがこの場合は問題になろうかと思う。実際この小説において震災に関わる部分はかなりのウェイトを占めているし、それなりにリアリティがあるという評価が群像新人文学賞の段階でも言われていた。またこの小説は、美しい顔に生まれた少女が無意識な状態から、震災についてのインタビューなどを通じて、自分の容姿を意識するといった、「私」の認識が変わっていくプロセスをつぶさに描いた部分もまた大きなウェイトを占めているという読み方も出来る。その自意識が目覚めていくプロセスが、非常に震災と深く関わっている部分があって、それらは切り離しては論じることが出来ないので、自ずとその両方に基づいた分析になったかと思う。震災に関わる事実ということには著作権はないので、誰もが書く自由はあるが、しかしその事実をどのように知るかと言えば、結局ノンフィクションや被災者の証言といったものを参照せざるを得ないし、個々の作家はそれに対する態度表明を求められるものでもある。したがって震災をテーマに小説を書く者は、誰もがそのことについて深く自問しなければならないのは自明のことであり、この作品はその点について事実を吟味し、それを自分の中に取り込んだ上で自分なりのフィクションとしての表現に昇華していく努力が若干足りなかったのではないかという意見も出た」と説明した。

直木賞選考委員の北方謙三氏の会見で、北方氏は島本氏の作品について「文章が非常に抑制が効いていて行間があるという評価があった。抑制された中で闇をまさぐったり〓き分けたりしながら、深いところに手が届く作品として評価されたのだろう。島本さんはもともとは芥川賞候補だったのが直木賞に来られたのだが、私は純文学だとかエンタテインメントだとかとは言えないと思う。我々が見るのは、この小説は優れているかどうかということであって、島本さんが直木賞の候補になられたことについて、私自身は何の違和感もなかったし、選考会でもそのような意見は出なかった」と話した。

場所を移動した受賞者会見で高橋氏は、「会見をやらなければ駄目だと言われたので引っ張り出されてきた」という、いたって冷静な第一声が印象的だった。受賞の喜びを尋ねられても「嬉しいと言えば嬉しいけど、ガッツポーズをするようなことはなかった。小説ってガッツポーズはあまり出ないものだろう。何かしら受賞できるのは嬉しいが、賞を欲しくて書いている人はいないと思うので、結果的に取れて良かったなという感じだ」と答えるにとどまり、最後までクールなイメージを崩さなかった。

島本氏は対照的に受賞を心から喜んでいるようで、「デビューしてから芥川賞候補4回、直木賞候補2回と、折にふれて待った18年だったので、ホッとしたというところが正直なところだ。今回候補になって、初めて芥川賞候補になった時よりも、七年前に『アンダスタンド・メイビー』で直木賞候補になった時のことを思い出していた。今だから言えるが三年ぐらい夢に見たほどで、同じテーマでもう一度書いて、広く読んでもらえるチャンスを得たいという気持ちがすごく強かったので、今回この小説で受賞できて良かった。作家としての課題も、これから書きたいテーマも膨らんでいるので、まだまだこれからだなと思っている」と話し、会見の締め括りには高橋氏の話を受けて「私は受賞の電話を頂いた時にガッツポーズをしました」と言って少し恥ずかしそうに笑った。
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