話題の本 長崎尚志さんが『先史学者プラトン』を読む メアリー・セットガスト著、山本貴光+吉川浩満翻訳 『先史学者プラトン 紀元前一万年―五千年の神話と考古学』(朝日出版社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2018年7月27日 / 新聞掲載日:2018年7月27日(第3249号)

話題の本
長崎尚志さんが『先史学者プラトン』を読む
メアリー・セットガスト著、山本貴光+吉川浩満翻訳 『先史学者プラトン 紀元前一万年―五千年の神話と考古学』(朝日出版社)

このエントリーをはてなブックマークに追加
考古学の知見に基づく大胆な仮説で先史時代の定説に挑む試論、『先史学者プラトン 紀元前一万年―五千年の神話と考古学』(朝日出版社)が刊行された。著者のメアリー・セットガスト氏は本論で、哲学者プラトンの『ティマイオス』『クリティアス』に記された古代の大戦争と七千年紀のザラスシュトラの誕生という二つの観点から考古学の成果を見渡すことで、「文明以前」と思われていた古代世界に高度で豊かな文化があった可能性と、新石器時代の「定住革命」はザラスシュトラによる宗教改革だったのではないかという仮説を導き出す。先史学のパラダイムシフトを目指す本書を、作家はどう読むのか、どのように刺激を受けたのか。

『MASTER キートン』や『イリヤッド 入矢堂見聞録』の漫画原作者である、長崎尚志さんに読み解いていただいた。 (編集部)


第1回
■アトランティス伝説 プラトン、ヘロドトス、ディオドロス

長崎 尚志氏
私はデビューが『イリヤッド 入矢堂見聞録』(画:魚戸おさむ/小学館)という漫画で、アトランティスをテーマにした物語だったのですが、当初そんな文明はプラトンの壮大なホラ話で、絶対に存在しないと思っていました。アトランティス大陸をテーマに書きませんかと提案したのは編集者で、無いと思うよと即答したら、それでは結論は“無い”でいいですと言われてOKしました。ところが本格的に調べ始めると、約一万年前、正確には九二〇〇年~九七〇〇年前くらいに、実在したかもしれないと思うようになったんです。プラトンは『ティマイオス』『クリティアス』で、アトランティスを「大陸」ではなく「島」と表現しており、「ヘラクレスの柱」、つまりジブラルタル海峡の向こうにあったと記しています。その東端の都市がガデイラという名だと言うのですが、これはたぶん、現在のスペインの湾岸都市カディスのことです。だからプラトンはある程度、そういう伝承に基づいて書いたのではないかという気がしてきたわけです。残念ながら、古代ギリシアの歴史家ヘロドトスの『歴史』には、アトランティスのことは一箇所「アトランティス人は夢を見ない」という記述(*1)があるだけで、島が沈んだとか強大な文明があったとかは書かれていません。ところが同じく古代の著作『ディオドロス 神代地誌』(飯尾都人訳編/龍溪書舎/一九九九年)には、言及があります。著者のディオドロスはローマ時代の歴史家ですが、実態はただの読書オタクみたいな人で、クレオパトラの時代に焼失した世界最古にして最大の「アレキサンドリア図書館」に籠り、大衆小説の類も含め、あらゆる歴史書を夢中で読み漁っていたようです。エジプトのアレキサンドリアには、入港した船の書物を一旦接収し、書き写すまで出航させないという決まりがあったようで、世界中の本が集まったと言われています。その蔵書の中にアトランティスが記されたものもあったらしく、ディオドロスはプラトンとは異なる伝説を発見しました。ただし島が沈んだという説話は共通しています。その島の大きさはプラトンの話よりかなり小さいのですが、そういう伝説があったのは嘘ではないと思いました。でも一万年も前にそんな高度な文明があったとは考え難く、かなり無理があるなとも思っていました。

(*1)「ここの住民の名は(中略)アトランテス人と呼ばれている。この種族は生あるものは一切食わず、また夢も見ないという」(『歴史』巻四・一八四)
2 3 4 5
この記事の中でご紹介した本
先史学者プラトン 紀元前一万年―五千年の神話と考古学/朝日出版社
先史学者プラトン 紀元前一万年―五千年の神話と考古学
著 者:メアリー・セットガスト
翻訳者:山本 貴光、吉川 浩満
出版社:朝日出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
「先史学者プラトン 紀元前一万年―五千年の神話と考古学」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
歴史・地理 > 歴史学関連記事
歴史学の関連記事をもっと見る >