44人へのアンケート 2018年上半期の収穫から|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月27日 / 新聞掲載日:2018年7月27日(第3249号)

44人へのアンケート
2018年上半期の収穫から

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毎年恒例、夏のアンケート大特集「二〇一八年上半期の収穫から」では、さまざまな分野の専門家や研究者、評論家、作家、書店の方などに、昨年末から今年の上半期にかけて出版された書籍から印象に残った三冊をあげていただきました。
国際社会、国内においても、時代の節目を感じさせる事件が相次いだ「平成」最後の夏、あなたは何を読みますか? 読者に最良の一冊が見つかれば幸いです。(掲載は順不同) (編集部)

【上半期の収穫 執筆者一覧】
阿部公彦(英米文学)/飯島吉晴(民俗学)/五十嵐太郎(建築史)/石原千秋(日本近代文学)/岩本真一(衣服産業史)/植村八潮(出版学)/臼杵陽(中東地域研究)/大野公賀(中国文学)/小川さやか(文化人類学)/片岡大右(仏文学・社会思想史)/鎌田東二(宗教哲学)/木村玲欧(防災・減災学)/木本好信(日本古代史)/倉本さおり(ライター)/郷原佳以(フランス文学)/河本真理(西洋美術史)/齋藤純一(政治理論)/佐々木力(科学史・科学哲学)/渋谷謙次郎(ロシア法)/砂川秀樹(文化人類学)/関智英(中国近現代史)/先崎彰容(日本思想史)/立川孝一(フランス史)/巽孝之(アメリカ文学)/田中智彦(倫理学・政治思想)/辻山良雄(Title)/戸田清(環境社会学)/中筋直哉(社会学)/長野順子(美学・芸術学)/長山靖生(評論)/成田龍一(日本近現代史)/長谷川一(メディア論)/秦美香子(漫画研究)/廣木一人(日本中世文学)/府川源一郎(国語教育)/北條一浩(ライター)/細見和之(ドイツ思想)/堀川貴司(日本漢文学)/堀部篤史(誠光社)/町口哲生(評論)/松原宏之(アメリカ史)/森岡督行(森岡書店)/森村進(法哲学)/与那原恵(ノンフィクション作家)
第1回
2018年上半期の収穫から(1)

臼杵陽(中東地域研究)

昨年末にトランプ米大統領が在イスラエル大使館をテル・アヴィヴからエルサレムに移す決定を行い、多くの国の反対にもかかわらず、イスラエル独立記念日に当たる5月14日に実際に移転を強行した。この決定の背景には米国内のキリスト教福音派の政治的な影響がある。実は福音派は日本の知識人にも存在する。役重善洋『近代日本の植民地主義とジェンタイル・シオニズム 内村鑑三・矢内原忠雄・中田重治におけるナショナリズムと世界認識』(インパクト出版会)は、無教会派キリスト者のイスラエル観を日本の朝鮮半島支配をも視野に入れて正面から分析した研究書である。また、中東地域ではシリア内戦が依然として続いている。そのシリアでクルド人がIS壊滅後、その支配地域を事実上広げることになった。福島利之『クルド人 国なき民族の年代記―老作家と息子が生きた時代』(岩波書店)は、イラクのクルド人作家の親子の語りを中心にクルド人の歴史と現状を描き出す。さらに、民衆とともに生きるインドの指導者を新たに語り直した竹中千春『ガンディー―平和を紡ぐ人』(岩波書店)という刺激的な新書も出版された。21世紀の中東イスラム世界ではガンディーのようなタイプの政治家は見出すことはできないようだ。(うすき・あきら=日本女子大学教授・中東地域研究)
大野公賀(中国文学)

高行健ほか著、飯塚容著訳『作家たちの愚かしくも愛すべき中国―なぜ、彼らは世界に発信するのか?』(中央公論新社)。中国語で創作する作家として初めてノーベル賞を受賞した高行健、そして高行健や莫言に続いて世界的に高い評価を受けている余華、閻連科のインタビュー、対談、講演集。彼らが一貫して指摘してきた中国社会の現実と彼らの「文学魂」を思う時、「なぜ、彼らは世界に発信するのか」という副題が胸を打つ。

牧野成一『日本語を翻訳するということ――失われるもの、残るもの』(中公新書)。日本語と英語の相違のみならず、翻訳の面白さと難しさ、そして「ニホンゴの不思議」に関する優れた論考。

ブレケル・オスカル『ゼロから分かる! 日本茶の楽しみ方』(世界文化社)。著書はスウェーデン出身の日本茶インストラクター。和食が世界遺産として認められる一方、日本茶は世界市場ではマイノリティであり、日本国内でも生産量、消費量ともに著しく減少している。日本茶の魅力を再発見する好著。(おおの・きみか=東洋大学教授・中国文学)
巽孝之(アメリカ文学)

土田知則『ポール・ド・マンの戦争』(彩流社)
高野泰志『下半身から読むアメリカ小説』(松籟社)
中西佳世子&林以知郎編『海洋国家アメリカの文学的想像力――海軍言説とアンテベラムの作家たち』(開文社出版)

一九七〇年代に勃興したイエール学派はポスト構造主義批評の牙城となり、ジャック・デリダの脱構築理論、転じては修辞学的読解のルネッサンスを迎えていたが、その中核を占めていたベルギー系亡命学者ポール・ド・マンについては、死後四年を経た八七年に戦時中ナチスドイツへ加担する媒体にユダヤ人差別を含む論説を発表していたことが発覚して、一大スキャンダルを巻き起こした。だが、果たして当時の彼はどこまで本気で執筆したのか? フランス語原典の精緻な読解を軸にした土田の最新刊は、旧来のド・マン像を転覆する知的スリルに満ち溢れている。  

一方、知的ならぬ痴的スリル満載の――にも関わらずこれまで決して体系化されてきたとは言えない――視点よりアメリカ・ロマン派文学から自然主義文学、モダニズム文学まで縦横無尽に論じてみせた高野の最新刊は、まさに新世代の文学研究とも呼ぶべき洞察に富む。

最後に、海とアメリカ文学についてはこれまで決して少なくない先行研究があるものの、我が国では今回の中西・林による共著が南北戦争以前の、捕鯨ならぬ海軍の形成期とアメリカ最初の文学的黄金時代が共振することに注目して、ホーソーンやメルヴィル、ホイットマンらを中心に力作論考を十一編を結集しており、読みごたえ充分だ。(たつみ・たかゆき=慶應義塾大学教授・アメリカ文学)
阿部公彦(英米文学)

類聚名義抄 観智院本1 仏()八木書店
類聚名義抄 観智院本1 仏

八木書店
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佐藤元状『グレアム・グリーン――ある映画的人生』(慶應義塾大学出版会)。英小説家グレアム・グリーンの映画との深いかかわりを考察する。映画の細部に向ける愛にあふれた視線を原動力にしつつ、「ミドルブラウ」「アダプテーション」「日常性」「メロドラマ性」などホットなトピックとの接続も試みる。小説の自由間接話法と映画の関係、映像と音声の対位法といった切り口がおもしろい。鳥飼玖美子『英語教育の危機』(ちくま新書)。長年にわたって辛抱強く英語教育行政の迷走に警鐘を鳴らし続けてきた著者だが、今こそ、その知見にあらためて耳を傾けるとき。日本の英語改革が繰り返してきた残念な失敗、学習指導要領の問題点、大学入試の民営化がもたらす弊害など、資料を駆使して丁寧に語る。川上亜紀『あなたとわたしと無数の人々』(七月堂)。小説家としてデビューした著者は後に詩人として活躍するようになるが、やがて詩のようでもあり小説のようでもある作品を書くようになった。最期の作品集には病とともに生きてきた著者の物語の種がたくさん詰まっている。(あべ・まさひこ=東京大学教授・英米文学)
森岡督行(森岡書店)

赤木明登『二十一世紀民藝』(美術出版社)。私たちはいま、東日本大震災や先日の西日本豪雨などの災害を経て、「祈る」行為が、以前より身近になっているのではないだろうか。人間の力では制御できない自然を前に、あのとき、真剣に祈った人は多いはず。赤木明登さんは本書で器のかたちの起源を「祈り」に求める。それを読むだけでも、身のまわりにある器が形が違って見えてくる。

三谷龍二『すぐそばの工芸』(講談社)。著者の三谷龍二さんは、いわゆる「生活工芸」について、「ただの食器のはずが、それだけではないものに育っていたのです。ものは長いあいだ家族とともにあるうちに、思い出を閉じ込めた写真アルバムのよう に、ものを越えた存在になっていった」と述べる。今後の「生活工芸」をあり方を伝えているようだ。

衣奈彩子『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。うつわが、もし、思い出を閉じ込めた写真アルバムのようになれば、それは個人の遺産と言っていいだろう。作家の成長と伴走することもできるかもしれない。本書は、衣奈彩子さんの丁寧なインタビューと美しい写真が相まって、そのような豊かな文化が受け継がれていこうとしてることを示している。(もりおか・よしゆき=森岡書店店主)
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