44人へのアンケート 2018年上半期の収穫から|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月27日 / 新聞掲載日:2018年7月27日(第3249号)

44人へのアンケート
2018年上半期の収穫から

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第2回
2018年上半期の収穫から(2)

松原宏之(アメリカ史)

ジョン・ルイス/アンドリュー・アイディン作、ネイト・パウエル画『MARCH』(全三巻)(押野素子訳、岩波書店)。キング牧師でなく、草の根活動家にしてのちの上院議員ジョン・ルイスを主役にして、公民権運動をとらえ返す手がかりになる。アメリカ黒人たちの公民権は必然というよりは、むきだしの暴力との戦いから辛うじて勝ち取られ(かけ)た、長く、分散的で、混乱した過程の産物。複雑さを保ったまま迫力の叙述。

この叙述の問題にまで射程を伸ばすのが、大門正克『語る歴史、聞く歴史 オーラル・ヒストリーの現場から』(岩波新書)。歴史学を、語り―聞き―受けとめている自分までも検討する過程として提示し直す。

長谷川修一・小澤実編著『歴史学者と読む高校世界史 教科書記述の舞台裏』(勁草書房)は、歴史叙述の過程を教科書が世に出るまでの諸側面からあぶり出す。昨年10月刊行のサム・ワインバーグ『歴史的思考 その不自然な行為』(渡部竜也監訳、春風社)とセットで検討したい。(まつばら・ひろゆき=立教大学教授・アメリカ史)
渋谷謙次郎(ロシア法)

本年三月に再選(通算四期目)を決めたプーチン大統領は、任期を全うすれば二〇二四年までロシア大統領である。かつて多くの人が「スターリン主義」について論じたが、今後、もっと「プーチニズム」について解明がなされてよい。

ピーター・ポマランツェフ『プーチンのユートピア 21世紀ロシアとプロパガンダ』(池田年穂訳、慶應義塾大学出版会)は、現代ロシア社会の内幕を独特の筆致で描く(小説を読んでいるような気分)。

西山美久『ロシアの愛国主義 プーチンの進める国民統合』(法政大学出版局)は、時にはソ連時代のシンボルや記憶を動員しながら愛国主義政策を進めるプーチン・ロシアを題材に、多民族国家ロシアの国民統合の模索を検証する。

ユニークなのは、オリバー・ストーン『オリバー・ストーンオンプーチン』(土方奈美訳、文藝春秋)であり、言わずと知れた米国の映画監督ストーンが、今度はプーチンにインタビューを試み、素顔のプーチンにせまろうとする。(しぶや・けんじろう=神戸大学教授・ロシア法)
田中智彦(倫理学・政治思想)

筒井清忠『戦前日本のポピュリズム』(中公新書)。日露戦争後の劇場型大衆動員政治(ポピュリズム)と「亡国」への下り坂。そこでメディアが果たした役割。それは単なる過去ではない。立憲主義を壊すものは何か、誰なのか。歴史の鏡に「今」が映る。また吉田裕『日本軍兵士』(中公新書)。その下り坂の果てに兵士たちの「死の現場」(金子兜太)があった。戦史が語らずにきた凄惨な実態と愚劣な背景。その否認や抑圧の上に戦後社会があるとするなら、やがて底が抜けるのも当然か。そして青木美希『地図から消される街』(講談社現代新書)。原発事故後の、再びの「死の現場」。人間もろとも「ない」ことにされる真実。記憶がなければ風化もない。何が、誰がそうさせるのか。強制断種・隔離の国策も戦後「民主」主義下にこそ徹底された。やはり「われわれは歴史から学んでいない。本当に懲りていない。だから、同じ間違いを何度も繰り返す」(金森修)のだろうか。(たなか・ともひこ=東京医科歯科大学准教授・倫理学・政治思想)
町口哲生(評論)

貴戸理恵『「コミュ障」の社会学』(青土社)。対人関係が不器用な「コミュ障」。「生きづらさ」とは、個人化・リスク化した人生における苦しみを表すと指摘し、八〇年代以降の「不登校」の諸相を読み解く。関与者としての当事者と共同性の産出。首肯した。

福田直子『デジタル・ポピュリズム』(集英社新書)。フェイクニュースの氾濫。今日はポスト・トゥルースの時代と称されるが、ジャーナリストの立場からいかに世論が操作されているかを分析。フィルターバブル、ボットなどの危険性に警鐘を鳴らした良書。

ハミッド・ダバシ『ポスト・オリエンタリズム』(早尾貴紀他訳、作品社)。九・一一以降のテロの時代。西洋による東洋の抑圧と搾取を正当化する言説として機能した「オリエンタリズム」は、ポスト、つまりベンヤミンのいう「メシア的停止」のうちで思考すべきという議論。サイードを継承しつつ行為主体性に関する批判的な問いを提示。知識人像が刷新された。(まちぐち・てつお=評論家)
木村玲欧(防災・減災学)

河田惠昭『津波災害 増補版―減災社会を築く』(岩波新書)は、東日本大震災の三ヶ月前に「津波は必ず来る」と訴え話題になった書籍の増補版。更なる大災害となる南海トラフ巨大地震と減災・縮災の必要性を平易な語り口と豊富な図表で解説する必読の書。

徳田竜之介監修『どんな災害でもネコといっしょ』(小学館)は、「災害弱者」であるペットの問題と対策を、具体的事例の写真やイラストで学べる。熊本地震では避難所でのペットの衛生・アレルギー・鳴き声・ケンカ等の問題で、車中泊や在宅避難をする飼い主が多かった。家族の一員であるペットの理解を深めてほしい。

藤岡達也『絵でわかる日本列島の地震・噴火・異常気象』(講談社)は、オールカラーの手作り感ある図表を眺めるだけで楽しい。平易な文章と合わさり、自然災害・日本列島への理解、自然への畏敬の念も持つことができる。地域・学校の副読本としても最適である。(きむら・れお=兵庫県立大学准教授・防災・減災学)
河本真理(西洋美術史)

トリスタン・ツァラの「ダダ宣言一九一八」からちょうど百年経つ。塚原史『ダダイズム――世界をつなぐ芸術運動』(岩波書店)は、ツァラの未刊のアンソロジー『ダダグローブ(ダダの地球)』を梃として、グローバルに越境し「世界をつなぐ」運動となったダダを鮮やかに浮かび上がらせる。周縁化されてきた「黒人芸術」との関わりや女性ダダイストを取り上げ、ダダの現代性を語る。

柳沢史明『〈ニグロ芸術〉の思想文化史――フランス美術界からネグリチュードへ』(水声社)は、「ニグロ芸術」の呼称がフランス美術界で創出された思想的背景と、その概念が大西洋を渡ってアメリカで変容していく様を、支配者側の文化の「領有」だけではなく、被支配者側の「流用」(ハーレム・ルネサンスやネグリチュード)にも着目しながら、双方向的に言説を通して分析する。

味岡京子『聖なる芸術アール・サクレ――二十世紀前半フランスにおける宗教芸術運動と女性芸術家』(ブリュッケ)は、従来等閑視されていた、両大戦間期におけるフランスの女性芸術家たちの教会装飾への関与に光を当て、こうした参加を促したジェンダー的誘因を明らかにするとともに、そのような活動の場が第二次世界大戦後のモダニズムの流れの中で減少していく背景を考察する。日本では類書がないテーマに果敢に取り組んだ貴重な労作。(こうもと・まり=日本女子大学教授・西洋美術史)
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