44人へのアンケート 2018年上半期の収穫から|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2018年7月27日 / 新聞掲載日:2018年7月27日(第3249号)

44人へのアンケート
2018年上半期の収穫から

このエントリーをはてなブックマークに追加
第3回
2018年上半期の収穫から(3)

与那原恵(ノンフィクション作家)

吉田裕『日本軍兵士』(中央公論新社)がベストセラーとなったのは、出版の力をあらためて感じさせる出来事だった。三一〇万人におよぶ日本人戦争犠牲者の九割が一九四四年以降と推算される。凄惨な体験を強いられた兵士たちの実態には言葉を失う。兵士たちの体格・体力は低下しており、異常に高い餓死者、三〇万人を超えた海没者がいた。日本軍はまともな軍靴さえ作れない状況だった。平明な言葉で戦場の事実を具体的に示す本書は、長く読み継がれるべき一冊だ。

笠原美智子『ジェンダー写真論』(里山社)は、セクシュアリティの視座から主に写真表現の歴史を読み解いた。ジェンダー、身体、老い、病、人種、階級……。アーティストたちが切実な思いに突き動かされて成した表現の多様性が胸を打つ。東京都写真美術館学芸員として活躍した著者の約三十年にわたる活動の軌跡でもある。

大城道則編著『図説 古代文字入門』(河出書房新社)は世界各地の古代文字と、その研究の歴史を研究者たちが図版とともに解説。驚きに満ちた楽しい本だ。(よなはら・けい=ノンフィクション作家)
戸田清(環境社会学)

粥川準二『ゲノム編集と細胞政治の誕生』(青土社)。新たに引かれようとする「生の線引き」にどう立ち向かうべきかを考える。

山本義隆『近代日本一五〇年 科学技術総力戦体制の破綻』(岩波新書)。原発事故に至る路線の破綻から近代日本を再検証する。

更科功『絶滅の人類史』(NHK出版新書)。二十数種類の人類のなかでなぜホモ・サピエンスだけが生き残れたのか、わかりやすく語る。

不公平な税制をただす会編『消費税を上げずに社会保障財源38兆円を生む税制』(大月書店)。消費税増税、法人税減税、福祉切り捨てなどの路線に対して具体的な対案を提起する。

吉永明弘・福永真弓編著『未来の環境倫理学』(勁草書房)。環境正義や将来世代などの観点から現代の環境倫理を考える。「気候ファースト」と「気候的正義」の対比も興味深い。

日本平和学会編『平和研究48号科学技術の暴力』(早稲田大学出版部)。構造的暴力を考える論集。(とだ・きよし=長崎大学教員、環境社会学・平和学)
廣木一人(日本中世文学)

武士の日本史(髙橋昌明)岩波書店
武士の日本史
髙橋昌明
岩波書店
  • オンライン書店で買う
髙橋昌明『武士の日本史』(岩波新書)。日本中世史に関して多くの著作を持つ著者であるが、本書の主眼は近現代、「日本は武士の国」と内外ともに捉えられていることの批判にあると言える。この観点から歴史を正しく認識することの重要性を示唆し、日本が「武士の国」として進みがちであることの危険性を強調する。

宮坂静生『季語体系の背景』(岩波書店)。俳人、俳句研究者である著者が季語とは何かを民俗学的な視点を加味しつつ記述した書。副題に「地貌季語探訪」とあるように、日本全国を訪れ、土地に根付いた季節感を捉え直すことで、都中心であった季語のもつ問題点を浮き彫りにする。

奥野克巳『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』(亜紀書房)。共に暮らし、知り得たボルネオの狩猟採集民、プナン族の生活、考え方を記録した書。一斉教育、集団生活を強要する学校教育の問題点を照射するなど、現代社会での正しさを再考させる。(ひろき・かずひと=青山学院大学名誉教授・日本中世文学)
長野順子(美学・芸術学)

西村清和『感情の哲学 分析哲学と現象学』(勁草書房)。これまで分析美学の紹介/研究を牽引してきた著者の最近の論考を集めたものである。「感情」と
いう概念的思考や論理で捉えがたかったテーマに対して、本来基本的立場の異なる分析哲学と現象学とが切り結ぶ地点から、原理論の構築をめざす。

小崎哲哉『現代アートとは何か』(河出書房新社)。A・ダントーの「アートワールド」論以来、芸術とは何かという問いは失効し、芸術は何によって芸術となるのか、と問いにとって替わられた。本書は、現代アートを成立させているシステムやメカニズムを批判的に解明しつつ、「時代の狂気」に立ち向かうアートの未来を考える。

笠原美智子『ジェンダー写真論 1991―2017』(里山社)。見られる対象であった女性が、カメラを手にして見る主体にもなったとき、どのような視点から世界を捉えようとするのか。その内なる葛藤は? 東京都写真美術館の学芸員であった著者の最近までの企画展の文章を集めた本書は、ジェンダーをめぐる現代社会の矛盾や痛みを問う書でもある。(ながの・じゅんこ=大阪芸術大学教授・美学・芸術学)
辻山良雄(Title)

カロリン・エムケ『憎しみに抗って 不純なものへの賛歌』(浅井晶子訳、みすず書房)。自分たちとは違う、弱い存在を作り出し、それを攻撃する。排他的な言説が公然と放たれるようになった世界で、憎しみの感情に捉われないための考察。難民政策に揺れるドイツのベストセラーは、店頭でも関心が高い。

伊藤亜紗『どもる体』(医学書院)。数多くのインタビューを基に、どもりのメカニズムを分析したこの本は、どもりでない人にも「自分がしゃべれているという奇跡」を思い起こさせる。意識と体のゆらぎのなかで、制御できない我が身の窮屈さ。そんな体の面白さと、底知れない怖さが迫ってくる傑作。

山崎佳代子『パンと野いちご 戦火のセルビア、食物の記憶』(勁草書房)。戦争の絶えないバルカン半島に長く住む詩人が、多くの人から「戦火のレシピ」を集めた一冊。食べものの記憶は、その人の人生の光景と結びつく。銃弾に脅えながら命をつないだ食べものに、世界史と個人史が重なる感動がある。(つじやま・よしお=荻窪・Title店主)
細見和之(ドイツ思想)

西成彦『外地巡礼――「越境的」日本語文学論――』(みすず書房)。いわゆる「外地」(植民地や移住地)で紡がれた膨大な日本語文学の掘り起こしから、今後の日本語文学の可能性を、最大限に汲み取ろうとする試み。それはもとより、「内地」文学の読み直しにも通じてゆく。ここでは「文学」は、個人の内面の吐露ではなく、まずもって、移動や外部接触の深い痕跡にほかならない。なかほどには、フェイスブックでの書きこみがたっぷり組み込まれている。

安藤元雄『『悪の華』を読む』(水声社)。長年ボードレール研究に携わってきた著者の集大成。二次文献も押えながら、たんなる紹介ではなく自分の読みがきっちり提示されている。著者によれば、「絶対的アレゴリー」をつうじて詩を同時代のものたらしめた作品、それが『悪の華』である。

白井聡『増補「戦後」の墓碑銘』(角川ソフィア文庫)。二〇一五年に金曜日から出版されていた単行本に、その後の文章を一〇〇ページ以上増補した文庫版。安倍政権を激烈に批判し続けている著者の言葉がこういう文庫版に収まるのは貴重。ひとことで言えば、正気であるための批評。(ほそみ・かずゆき=京都大学教授・ドイツ思想)
堀部篤史(誠光社)

半月に一度企画展を、毎週のごとくイベントを開催していると、読書人としての主体が薄れ、ある意味受動的な読書体験が増えてありがたい。そんな中で印象に残った3冊。川瀬慈『ストリートの精霊たち』(世界思想社)は、エチオピア北部の都市ゴンダールに、地域社会の音楽に関するフィールドワークのつもりで訪れた著者が出会ったストリート最深部に生きる子どもたちや女、そして味覚や聴覚の記憶を綴ったジャンル分け不能な一冊。社会学や人類学の分野でこういうタイプの本が増えていて興味深い。澤口たまみ『新版 宮澤賢治 愛のうた』(夕書房)はもりおか文庫のラインナップとして刊行された著作の新装版。賢治の神格化と共にオミットされてしまった恋人の姿を、その詩作や童話から浮き彫りにしていく試み。齋藤桂『1933年を聴く』(NTT出版)は、日本が戦争に向かう不穏な時代の「音」に着目した一冊。祝い事を告げるサイレン音が徐々に警告音へとスライドしていく自然さが不気味。(ほりべ・あつし=誠光社店主)
堀川貴司(日本漢文学)

日本中世文化の形成発展に大きく貢献しながら、必ずしも正当に評価されていない禅僧たちの活動を、歴史学の立場から扱った本が立て続けに出た。芳澤元『日本中世社会と禅林文芸』(吉川弘文館)は、都市文化や権力者と禅宗との関わりを、文学作品を手がかりに考える。

斎藤夏来『五山僧がつなぐ列島史』(名古屋大学出版会)は、「夷中(いなか)」をキーワードとして、京都五山寺院に偏りがちな研究を正し、足利政権と在地勢力とを往来する存在としての五山僧に注目する。

川合康三ほか訳注『文選 詩篇』(全六冊、既刊一・二、岩波文庫)は、中国文学の最高峰の一つにして、古代以来の日本文学にも大きな影響を与えた漢詩文のアンソロジーのうち、漢詩すべてに訳注を施すもの。膨大な研究史を踏まえた専門的な語注と、作品の雰囲気を的確に捉えた訳文とによって、李白・杜甫・蘇軾らが敬仰した詩人たちの作品が身近なものとなった。(ほりかわ・たかし=慶應義塾大学附属研究所斯道文庫教授・日本漢文学)
森村進(法哲学)

ポール・ブルーム『反共感論』(高橋洋訳、白揚社) 「他人の経験を経験する」という意味の「エンパシー」はえこひいきを助長するため社会的状況を悪化させるとして、それに対し不偏的かつ理性的な「コンパッション」を擁護する。公共的な議論でさえ特定の人々に「寄り添う」ことが高く評価される今こそ特に読まれるべき書物。

広瀬巌編・監訳『平等主義基本論文集』(勁草書房) 平等主義およびそれに替わる分配的正義論の代表的論文5編を訳出した良心的アンソロジー。中でも「優先主義」を明確化したパーフィットの「平等か優先か」は待望の邦訳だ。二流の研究書よりもこのような重要な論文の選集の方がずっとありがたい。

小針由紀隆『クロード・ロラン』(論創社) 近世ヨーロッパの「理想風景画」に関心を持つ人にとって必読。クロード以前と以後にも叙述を広げる。ただターナーまで取り上げるなら、アメリカのハドソンリバー派にもひとこと言及してほしかった。(もりむら・すすむ=一橋大学教授・法哲学)
1 2 4 5 6
この記事の中でご紹介した本
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
文化・サブカル > 読書関連記事
読書の関連記事をもっと見る >