44人へのアンケート 2018年上半期の収穫から|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月27日 / 新聞掲載日:2018年7月27日(第3249号)

44人へのアンケート
2018年上半期の収穫から

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第4回
2018年上半期の収穫から(4)

齋藤純一(政治理論)

ユルゲン・ハーバーマス『後期資本主義における正統化の問題』(山田正行・金慧訳、岩波文庫)。1973年に出版された原著の新訳である。旧訳に比べ格段に精確かつ読みやすい。経済システムへの対応を迫られる行政システムが合理的な成果を導くことができず、正統性の欠損を抱え込むようになるという鋭利な分析は、いまも色褪せていない。

森達也『思想の政治学――アイザィア・バーリン研究』(早稲田大学出版部)。とくに、バーリンの思想を言語論・価値多元論の文脈でとらえ直し、彼のシオニズム運動への関与について掘り下げて考察している点で、バーリン研究の新しい成果を示している。

大竹弘二『公開性の根源――秘密政治の系譜学』(太田出版)。行政(執行)の主権(立法)に対する圧倒的といっていい事実上の優位は近代国家の基調であるという見方を示す。公開性も行政権力を制御する仕方で作用するとは限らず、むしろ為政者のツイッターに見られるように動員にも利用されうる。「遊び」と「不能性」という「政治的なもの」の探求には説得されなかったものの、政治と行政の関係について再度考えることを迫る本である。(さいとう・じゅんいち=早稲田大学教授・政治理論)
中筋直哉(社会学)

自分がそうなので他所の夫婦学者の仕事が気になる。夫唱婦随ではなく、それぞれが個性的な仕事ぶりだと、いいな、うらやましいと思う。澁谷智子『ヤングケアラー―介護を担う子ども・若者の現実』(中公新書)は、少子高齢化「自己責任」社会の暗部を、子ども目線で括り出す。子どもたちを追い込む家族や学校の闇は、それを当然視してきた社会学のマジョリティへの批判でもある。彼女のパートナーの五十嵐泰正『原発事故と「食」―市場・コミュニケーション・差別』(中公新書)は、原発災害7年目の、議論の成熟度を示す。とくに副題がいい。市場とコミュニケーションは現代社会の「土台」だが、それが公平ではなく差別を生み出すのは、原発災害だけの問題ではない。では、その差別をどう乗り越えるのか。「支援」編集委員会編『支援』(最新第8号、生活書院)には、そのヒントが満載だ。社会学者が多く関わっていることも心強い。(なかすじ・なおや=法政大学教授・社会学)
鎌田東二(宗教哲学)

稲葉俊郎『いのちを呼びさますもの』(アノニマ・スタジオ)。「いのち」の「根本」を探求してきた循環器内科医からの「すぐれた芸術は医療であり、すぐれた医療は芸術である。美も医も本質的には同じところから発していて、それは自分や周りを幸せにし、引いては社会全体も幸せにするための手段だった」という直球メッセージはインパクト大であり、未来医療の広がりと可能性を拓く。

鶴岡真弓『ケルトの想像力―歴史・神話・芸術』(青土社)。ケルトブームを牽引してきた著者によるケルト研究の集大成。ヨーロッパの根源にケルトがある。そのケルトの想像力とは異質なものをも結合させてしまう一種魔術的な親和力。それにより自然と動物と物語が縦横に結ぼれ折り込まれ、絢爛たるケルトマンダラを生み出していく。

田島照久・阿部善彦編『テオーシス―東方・西方教会における人間神化思想の伝統』(教友社)。テオーシスとは人間神化。「神秘主義」という言葉を内側から問い直す超刺激的な神秘思想研究の最前線。(かまた・とうじ=上智大学グリーフケア研究所特任教授・京都大学名誉教授・宗教哲学)
木本好信(日本古代史)

荊木美行『東アジア金石文と日本古代史』(汲古書院)は、集安高句麗碑や広開土王碑など金石文の建碑年代に迫りつつ半島の歴史事実を解明する。また帝王系図一巻が早い段階から日本紀三十巻と分離していたことや風土記など古代史料について、著者ならではの堅実な手法によって古代国家の実相を追究する。また伊勢神宮の創祀についても独自の見解を示す。

山本幸男『正倉院文書と造寺司官人』(法藏館)は、奈良時代中期の正倉院文書のうち、写経・造営関係の文書を整理・検討するなかで安都雄足や上馬養ら中心となる人物に焦点をあわせて、その経済活動にも言及しつつ造東大寺司官人の実態を論述する。

朧谷寿『藤原彰子』(ミネルヴァ書房)は、御堂関白道長の娘に生まれ、後一条・後朱雀天皇を生み、『大鏡』に「天下第一の母」といわしめ、道長・頼通ら藤原摂関家に繁栄をもたらした藤原彰子の生涯を少ない歴史々料に加えて、紫式部などの女性による資料をも駆使しながら新知見を示して明らかにしてゆく。(きもと・よしのぶ=龍谷大学特任教授・日本古代史)
砂川秀樹(文化人類学)

若松英輔『常世の花 石牟礼道子』(亜紀書房)。石牟礼さんは、『苦海浄土』を「詩」であると考えていたという。その詩は「言葉になり得ないものを実現しようとする試み」である。そして、著者は、死者の声が生者を通して語られ書きとめられることにまで目を向ける。中田英樹、髙村竜平編『復興に抗する』(有志舎)。「被災地」という言葉で切断され「復興」という未来像が押し付けられがちな状況の中、人々はどのように震災経験を含めた生を生きてきたか。また、その生につながる様々な地域の営み。東優子、虹色ダイバーシティ、ReBit『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)。出生時に割り当てられた性別と異なる性別で生活するトランスジェンダーの人たちが、自分を押し殺さずに生きてくため職場でできること、課題となることを具体的に記す。それぞれ全く異なる形だが、どの本も、掻き消されがちな声に耳を傾け、それを社会に届ける本である。(すながわ・ひでき=文化人類学者)
立川孝一(フランス史)

近頃、これまでの価値観が通用しなくなっていると考えさせられることが多い。けれども、それが若い世代の真摯な問いかけによるものならば、変化もよしと思わざるをえない。

イヴァン・ジャブロンカ『歴史は現代文学である――社会科学のためのマニフェスト』(真野倫平訳、名古屋大学出版会)は、フランス歴史学の若い世代が雄弁に自己主張をしていることの好例であろう。歴史(事実)と文学(想像力)の境界は、日本では作家たちによって蹂躙されている観があるが、フランスでは歴史家たちが越境している。

松下哲也『ヘンリー・フューズリの画法――物語とキャラクター表現の革新』(三元社)。眠れる美女の胸にのしかかる「夢魔」は、フランス革命の嵐を予感させるものとして挿絵に使われたりしているが、サド的なファンタスマゴリーを醸し出す画家が、実はイギリスの王立アカデミーの教授で、観想学の理論家であったことなど、意外な側面に驚かされる。

伊達聖伸『ライシテから読む現代フランス――政治と宗教のいま』(岩波書店)。フランス革命で頂点に達した政治と宗教の対立が一九〇五年の政教分離で妥協点を見出したはずなのに、ライシテの理念それ自体が宗教化して新たな対立を生み出しているのは、進歩ではなく、歴史の繰り返しのような気がする。(たちかわ・こういち=筑波大学名誉教授・フランス史)
関智英(中国近現代史)

寺田浩明『中国法制史』(東京大学出版会)は、題名から仁井田陞の同名書を想起する向きもあろう。本書も仁井田著と同じく伝統中国法を概括したものだが、単に制度的な内容にとどまらず、清代を中心に、中国社会のありようにも積極的に筆を割いている。法制に軸足を置いた中国社会史と言える。

同じく題名に既視感を覚えたのが、木村光彦『日本統治下の朝鮮―統計と実証研究は何を語るか』(中公新書)だ。本書は明確に山辺健太郎の同名書を意識し、とかく結論ありきで語られがちな植民地支配のイメージに対し、イデオロギーを排した実証的な統計の読み取りから是正を迫った好著。

柳本芸著・吉田光男訳註『漢京識略―近世末ソウルの街案内』(平凡社)は、一八三〇年に物されたソウルに関する初めての地誌。本書は、現存する四種の写本全てを校合し原文を復元した上で翻訳し、註釈を施した、まさに学問の王道に則った地道な作業の賜物。解説には訳者のソウルに対する愛情が滲む。(せき・ともひで=公益財団法人東洋文庫奨励研究員・明治大学兼任講師・中国近現代史)
飯島吉晴(民俗学)

(1)古家信平編『現代民俗学のフィールド』(吉川弘文館)。本書は、七〇年代初めに当時「学術的民俗学」の成立を目指して格闘した第一世代の薫陶を受けた第二世代以降の若手研究者たちが、それまでの民俗学の方向性を超克すべく「先鋭化」「実質化」「国際化」の三つを目標に掲げて設立した現代民俗学会から十年が経過した現在、その成果を公刊して現代民俗学の現状と課題を問うた論文集である。
(2)安井眞奈美編『グリーフケアを身近に』(勉誠出版)。本書は、さまざまな分野の研究者や医療従事者と、子どもの死や流産、死産を経験された方がたとが、「哀しみとともに生きる術」を探求し、わずかでも希望がもてるように願って刊行された待望の書である。自然災害や不慮の事故、死の看取りなど現代日本では、グリーフケアが求められている現場が少なくないが、その一つのヒントとなるだろう。
(3)岡部隆志『アジア「歌垣」論』(三弥井書店)。これまで、著者たちは「なぜ歌い、歌を掛け合うのか」という問いの答えを求めて、古代日本とアジアの歌掛け文化を比較検討すべく、とくに中国の少数民族の現地調査を重ねてきたが、本書もその意欲的な成果の一端を示すものである。(いいじま・よしはる=首都大学東京講師・民俗学)
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