ジョルジュ・バタイユ 行動の論理と文学 書評|石川 学(東京大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月28日 / 新聞掲載日:2018年7月27日(第3249号)

ジョルジュ・バタイユ 行動の論理と文学 書評
次世代のバタイユ研究の要石 
非―知の思想家という作家像を覆す

ジョルジュ・バタイユ 行動の論理と文学
著 者:石川 学
出版社:東京大学出版会
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二〇世紀の思想・文学・芸術観に巨大な足跡を残したジョルジュ・バタイユは、その生涯の間に、文学と行動をめぐって大きな「転回」をしている。第二次世界大戦前のシュルレアリスム批判の時代(文学よりも行動)から、戦後の円熟期(行動よりも文学)への方向転換である。

この「変節」はこれまでもさまざまに解釈されてきた。本書の特質は、それを当時のバタイユが吸収した科学的知識によって説明している点にある。具体的に言えば、バタイユの思想の背後には常に当時の「学知」(自然科学、精神分析学、ヘーゲル哲学、社会学、経済学)の裏付けがあり、それらがあるときは行動するための「武器」として、あるときは行動しない(文学を選ぶ)ための「防具」として機能していたと分析されるのである。

一般に非合理性や偶然性の擁護者として語られるバタイユが、その実、当時最先端の科学的知識によって文字通り理論「武装」していたという指摘は新しい。その意味で本書は、「非―知」の思想家という半ばカノンとなった作家像を覆し、合理主義者、科学主義者バタイユという新たな作家像を描くという実に野心的な作業を行っている。

例えば、論敵だったブルトンやサルトルは、バタイユの思想的傾向を作家個人の心理や生理に帰したが、本書はこの思想家を当時の知の座標軸上に標定し、その武器や防具、剣術がいかなる作家や「学知」に由来しているかを丹念に追跡している。

バタイユ=甲冑姿の武者。果たしてこの比喩は行き過ぎだろうか。だが、これが武士のが行う究極的な行動(もしくは非―行動)を導くための周到な伏線であるとしたら、あながち軽んずべきではない。実際、本書の最大の読みどころは、戦後のバタイユの変節を追尾する、第二章「防具としての論理」から第三章「文学と無力への意志」にある。結論から言えば、この第三章において、バタイユは「武器」も「防具」も捨てて戦場に立つ。すなわち、文学という無力な「反抗」に身を委ねるのである。

もちろん、この帰結は死の欲動といった胡乱な原因によってではなく、合理主義者バタイユの徹底として、すなわち、「全般経済学」とバタイユが呼ぶところの地球規模での経済学への合理的な準拠として説明される。つまり、無際限の生産(蓄積)の果てにある破滅(戦争)を避けるために、「文学」という非生産的な活動(消尽)が選び取られるのである。

自戒を込めて言うが、多くの先行研究では、バタイユが文学を選んだ理由について、読者との「交流」というロマン主義的な側面に気を取られ、その選択の理論的背景を閑却しがちである。その点、本書は文学という選択を「全般経済学」の延長線に位置づけることで、行動から文学へといたる理論上のミッシングリンクを掘り当てている。

ただし、欲を言えば、行動から文学へと移行する戦中期の代表作「無神学大全」三部作の扱いの相対的な軽さ、また、文学論に着目しながらも作家本人の物語、小説作品への言及がほとんどないのは不自然であるし、文学=無力(有罪だが無垢)という定型の無批判な継承や死すべき作家というイメージにロマン主義的な陶酔をあやぶむ読者もいるに違いない。文学という無力さを意志した結果、作家の死は必然的な運命であるという即身仏のような諦めの境地をバタイユの到達点とする結論も筆者とは見解の相違がある。実際、カフカ論とともに語られるそれは、武装解除である以上に切腹に似ている。

とはいえ、本書が投げかけた問いの重要性はいささかも減じるものではない。苛烈な意志と驚くべき資質で執筆された本書とその著者が次世代のバタイユ研究の要石となることは間違いない。東京大学南原繁記念出版賞の授賞はその露払いである。
この記事の中でご紹介した本
ジョルジュ・バタイユ  行動の論理と文学/東京大学出版会
ジョルジュ・バタイユ 行動の論理と文学
著 者:石川 学
出版社:東京大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「ジョルジュ・バタイユ 行動の論理と文学」出版社のホームページはこちら
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