億男 書評|川村 元気(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2018年8月4日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

川村 元気著 『億 男』 
愛知大学 坪島 阿紀

億男
著 者:川村 元気
出版社:文藝春秋
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億男(川村 元気)文藝春秋
億男
川村 元気
文藝春秋
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どんなに働かない人でも、「お金」に興味がない人はいないだろう。「世の中は金が全てだ」という人もいれば、「お金では買えないものもある」という人もいる。果たして人々は何を求めてお金を稼いで、貯めているのだろうか。本書は「お金と幸せの答え」をテーマに、その答えを探し求め続ける30日間の物語だ。

宝くじで3億円を当て、突如「億男」となった主人公の一男は突然手に入った大金に困惑し「お金と幸せの答え」を求めて大金持ちの親友の九十九のもとを訪ねた。しかしその直後、3億円とともに九十九が失踪。行方を追うため手がかりとなる九十九と同様大金持ちの知人、3人のもとを訪ねるが、そこで「愛人ではなくお金を愛する」「お金を捨てたくてしょうがない」「お金の宗教世界に浸る」といった「大金」によって変貌した生活を知ることになる。さらに、福沢諭吉、チャーリー・チャップリン、サミュエル・スマイルズ、アダム・スミス、ショーペンハウア―など、数々の偉人たちの言葉にも導かれながら「お金」の正体を掴んでいく。

本書では、例えば、「貴賤上下が生まれる訳」、「2種類あるお金」や「「賭けと信用」の関係」など普段扱う「お金」をいつもと違う方向から捉えているため、知らなかった新しい「お金」に出会える。当たり前のように稼いで貯めて欲しいものを手に入れる「お金」は、単なる「交換手段」に過ぎないが、しかし、「お金」がたくさん「ある」と気持ちに余裕が生まれ、反対に「ない」と不安に駆られるといった人間の感情・心理面にも影響している。それほど「お金」が我々に与える影響は大きい。1万円札は実質20円程度で刷られているが、1万円の価値を持つ。これは、人々の「信用」に基づいて成り立っているからだ。みなが1万円分の価値があるとしてみなしているから1万円札になる。「お金」と「信用」は表裏一体とも言える。グレーなイメージを持つ「お金」だが、ここではとてもシンプルで純粋に表されているため、本質を捉えながら読み進めることができる。

本書の著者である川村元気氏は「君の名は。」など、かつてリピーターも続出した大人気の映画作品の創作に関わっており、本書も映画のようなきわめて細かく独特な場面構成によって「お金の世界」が描かれている。登場人物の個性あふれるしぐさや内面・感情、出てくる場面の景色や雰囲気はあらゆる表現で描き出され、現実ではそうそう目にすることもない大量の札束なども、はっきりイメージすることができておもしろい。読みながら、まるで映画を見ているような感覚を味わえる楽しさが本書にはある。

億なんて大金、私には無関係だと思いつつも、なぜ「億男」になれたのかとても気になり、最近大学で「貨幣信用論」を学んでいることもあって、お金への興味から本書を購読したが、これほど「お金」と正面から向き合ったのは初めてである。
「お金と幸せの答え」は何なのか、早く答えを知りたいと、急ぎ足になってはいけない。生々しいお金の世界に導かれ、どっぷり浸かって自分も答えを求めてじっくり考える。一度きりの人生なのだから楽しく充実した時間を増やしたい。生きていく上で欠かせないお金と「幸せ」のつながりを考える良い機会になるのではないか。小説の妙味を超えた奥深さがぎっしり詰まった作品である。
この記事の中でご紹介した本
億男/文藝春秋
億男
著 者:川村 元気
出版社:文藝春秋
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