翻訳フェスティバル2018 世界の言葉をつむぐ人々 開催レポート|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月3日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

翻訳フェスティバル2018 世界の言葉をつむぐ人々 開催レポート

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7月21日、新宿区・韓国文化院で、「翻訳フェスティバル2018 世界のことばをつむぐ人々」(駐日韓国大使館・韓国文化院・クオン共催、韓国文学翻訳院後援)が開催された。近年、欧米だけでなく韓国を始めとするアジア語圏、少数言語の作品も続々と紹介されるようになり、翻訳大国と言われる日本で、世界各地で生まれた文学作品がどのように翻訳され市場に送り出されるのか。今回のイベントでは海外文学を送り出す最前線の編集者、第一線で活躍する各国語の翻訳者によって翻訳書の舞台裏が語られた。その模様をレポートする (編集部)
Part1「本が生まれる現場から」


Part1「本が生まれる現場から」には、「韓国文学のオクリモノ」(晶文社・斉藤典貴氏)、「クレストブックス」(新潮社・須貝利恵子氏)、「エクス・リブリス」(白水社・藤波健氏)、「新しい韓国の文学シリーズ」(クオン・金承福氏)といった魅力あるシリーズから海外文学を送り出す出版社の編集者たちが登壇。作品の選び方や翻訳家との協力関係などが語られた。国内外の文学賞やノーベル文学賞を取ると本が売れるのかといった話題のあと、翻訳者をどういう基準で選んでいるのかというテーマで各社の編集者は、

「作品の持ち込みは多いが、その時の基準はその作品をいかに理解しているかということに尽きる。それと日本語の能力が重要で、語彙ひとつとってもこれはこう訳すよりこういう言葉の方が良いだろうという言葉のチョイスが自然にできる翻訳者が当然重宝される。基本はその作品に対する理解と日本語の能力ということ。それとそれ以外にもう少し幅広くその人の気持ちが伝わるもの、その国の文化や歴史、カルチャーが好きであるとかそういったものも含めて翻訳の力で、自分の存在をかけてといったら大げさかもしれないが、そういったものを読めば編集者に必ず響く(白水社・藤波健氏)」

「藤波さんの話に全く同感で付け加えることがない。今日の会場には翻訳の勉強をなさっている方も大勢いらっしゃると思うが、専門の文学以外に日本語の本をどのくらい読んできたか選んでいるかということがそれぞれの方の日本語のストックを作ると思う(新潮社・須貝利恵子氏)」

「いまのお二人の言っていることと自分が考えていることは全く同じで大体みんな同じなのだと思う。編集者は基本的に日本語で読むが、逆の楽しみとしては日本語の訳文を読みながら原文は何なんだろうと思うときがある。この日本語がどうしてこの訳文になるのか、原文を見て上手だなと思うときがあって、それが「この翻訳者と仕事をするのは楽しい」と思える瞬間でもある(晶文社・斉藤典貴氏)」

司会を務めたクオンの金承福氏も「本当に同感する」と共感を寄せた。最後に、各社イチオシの本が紹介され第1部が終了した。各社の推薦本は次の通り。

▽晶文社・斉藤典貴氏=『鯨』(チョン・ミョングァン著、斎藤真理子訳)

▽新潮社・須貝利恵子氏=『最初の悪い男』(ミランダ・ジュライ著、岸本佐知子訳)、『変わったタイプ』(トム・ハンクス著、小川高義訳)、『美しい子ども』(短編アンソロジー・松家仁之編)

▽白水社・藤波健氏『奥のほそ道』(リチャード・フラナガン著、渡辺佐智江訳)

▽クオン・金承福氏『そっと静かに』(ハン・ガン著、古川綾子訳)
Part2「翻訳の最前線」


Part2の「翻訳の仕事最前線」では、翻訳の第一線で活躍する、天野健太郎氏(中国語)、金原瑞人氏(英語)、栗原俊秀氏(イタリア語)、古川綾子氏(韓国語)、松永美穂氏(ドイツ語)といった翻訳家たちが登壇。金原瑞人氏がトークの司会を務め、各国語の翻訳状況やそれぞれの事情、一つの作品が生まれるまでの翻訳家としての悩みや葛藤、喜びについて、本音トークが繰り広げられた。

最初にそれぞれの自己紹介を兼ねて、翻訳者になるまでの道のりが語られた。

ドイツ語翻訳者の松永美穂氏は、「私は大学院でドイツ文学の現代文学の研究をしていたが、大学院でも原書の精読が多くその過程で翻訳をすることが多かった。いつ翻訳者になれるかというのは自分でも本当にわからなかったがドイツに留学時の指導教授だった作家の本を是非邦訳したいと思って、出版社に持ち込んだのが始まり」。

台湾の本を翻訳して日本で刊行している中国語翻訳者の天野健太郎氏は、「僕は台湾に留学して中国語の勉強をして、最初は台湾の会社に入って書き物も含めて通訳をしていた。留学中は日常的に本屋や映画館に行って、深く考える前に台湾の作家の本を読むのが楽しくなって帰ってきてそれが続いていた。だから読者上がりのようなもの。2009年、2010年頃に台湾で歴史もののブームがあったときに、小説だけなら厳しいと思っていたがこれならいけるだろうと、企画書を書いて持ち込みをしたのが始まりで作品ありきだった」。

イタリア語翻訳者の栗原俊秀氏は、「一番最初に出した翻訳書は『ヴィットーリオ広場のエレベーターをめぐる文明の衝突』(アマーラ・ラクース著、栗原俊秀訳・解説/未知谷)で、日本の大学ではイタリアのルネッサンス文学の勉強をしていた。そのルネッサンス文学を勉強するために留学したイタリアのイタリア文学の講義でこの作品に出会って非常に新鮮だった。これを日本の読者に読んでもらいたいと思い、大学時代に知遇を得た、ロシア文学の翻訳家・児島宏子さんにご紹介いただいて、未知谷という出版社からこの本を出せることになった」。

韓国語翻訳者の古川綾子氏は、「私は大学で韓国語を専攻して卒業後は韓国系の企業で社内通訳や翻訳を行なっていた。出版翻訳者になろうという思いはなかったが途中で韓国の大学院に留学して、留学中にたまたま応募したコンクールで翻訳の新人賞をいただいてこのような出版翻訳の仕事をするようになった」。

そして、これまでの訳書が500冊を突破したという英語翻訳者の金原瑞人氏は、「僕は大学4年生の就活で、受けた会社すべて落ちて、もうカレー屋になろうと思っていた。そうしたら卒論の指導教授に大学院に誘われて行ったのが運の尽き(笑)。カレー屋でひと山当てることもできず、その先生に乗せられて翻訳の道に。うかうかと道を踏み外してしまった(笑)」。

トークでは、年間の翻訳点数の話から、翻訳で食べていけるかといったシビアな問題まで、それぞれの翻訳事情、実情が笑いを交えて語られ、「どうやったらそんなに訳せるのか」という登壇者からの質問に対して金原氏は、「僕の場合は翻訳を始めて5、6年頃から共訳をお願いすることにした。誤訳を自分で逐一付き合わせるのが面倒で、ざっと一回訳し終えたら他の人にチェックしてもらってフィードバックをして訳し直す方がはるかに効率的。そういうチェックのシステムをまず作って、その後は共訳という仕組みにした。

僕は共訳がとても面白いと思っていて、文体が近い面白い人に任せる。最初に大体打ち合わせして後は全部任せて、それを僕が見る前に他の人にチェックしてもらってフィードバックしてもらって、それを僕が原書に付き合わせるという、いってみれば工房制を取っている」と説明し、「でもそういうやり方をすることで翻訳者も育つし、次の世代に広がっていくことにもなるのではないか」と語った。

最後にそれぞれの翻訳者が今取り組んでいる仕事や、今後出したい本について熱いトークが繰り広げられ、質疑応答では会場からたくさんの手が挙がった。
Part3「授賞式」、審査員のきむふな氏(左)と最優秀賞・優秀賞の受賞者3人
 

Part3では、第1回「日本語で読みたい韓国の本」翻訳コンクール(主催:株式会社クオン・K―BOOK振興会、後援:韓国文学翻訳院)の授賞式が行われた。このコンクールは優秀な新人翻訳家の発掘家を目指して創設されたもので、最優秀作が実際に本になるということで注目されていた。募集に際しては門戸を大きく開きつつもある程度のハードルを設けたいということで課題作品を2作(短編集『ショウコの微笑』(チェ・ウニョン著)所収の7篇から共通課題の表題作含む2作)を翻訳して応募することが条件となった。結果は、総勢212名の応募から厳正な審査を経て最優秀賞1名、優秀賞2名が選ばれ、最優秀賞・優秀賞に輝いた3名への授賞式と審査員による講評が行われた。受賞者は次の通り。

▽最優秀賞=牧野美加氏

▽優秀賞=小林由紀氏

▽優秀賞=横本麻矢氏

審査員=中沢けい氏(小説家)、吉川凪氏(翻訳家)、きむふな氏(翻訳家)、温又柔氏(小説家)

300名収容の韓国文化院・ハンマダンホールには、出版関係や各国の翻訳関係者、一般のファンなど、大勢の人が参加し、熱心に耳を傾けていた。
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