水戸黄門 天下の副編集長 / 月村 了衛(徳間書店)〈明朗快活時代劇の復権〉 手に取れる安心感と、予想外のズッコケの同居|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

著者から読者へ
更新日:2018年8月4日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

〈明朗快活時代劇の復権〉
手に取れる安心感と、予想外のズッコケの同居

水戸黄門 天下の副編集長
著 者:月村 了衛
出版社:徳間書店
このエントリーをはてなブックマークに追加
お読み頂ければお分かりの通り、本作は〈明朗快活時代劇の復権〉を目指したものである。ゆえに文体は正統的時代小説文体でなければならない。講談をベースとし、体言止めの多用によって七五調のリズムを生み出す。読むこと自体が快感となっていく文章。内容はどこまでも勧善懲悪。本来はそれこそが大衆文芸の保守本流であったはずなのに、気がつけば絶滅危惧種の境遇だ。そうした文章で綴られた痛快な小説は近頃とんと見かけない。

時代劇の黄金時代は時の彼方へ去って久しい。本来は日本人の誰もが共有していたはずの文化的共通認識がすでに失われているのだ。そのことに気づいて愕然としている。失われた文化はもう二度と戻ってこない。しかし、心からそれを求める読者はまだまだ残っているはずだ。少なくとも、私より上の世代には。

従って、本書のメインターゲットは熟年層と言われる善男善女だ。「言葉遣いが変だ」とかSNSやレビューサイトに書き込んでいる子供は読まなくていい。繰り返す。モノを知らない子供は帰れ。ただし、大人の世界に向かって懸命に背伸びしようとしている若者は大歓迎だ。本書をきっかけに新しくも懐かしい世界に触れてほしい。

基本フォーマットは『水戸黄門』、それも日本人が最も親しんだと思われるテレビシリーズ版。放映されているだけでほっとするような、偉大なるパターンの世界……であるはずにもかかわらず、本書は水戸光圀が『大日本史』を編纂したという史実に徹底して忠実だ。このギャップが笑いを生む。「コレだよ、コレ!」と手に取れる安心感と、予想外のズッコケ(死語だろうが構いはしない)の同居。そこに不肖私ならではの独創がある。自画自賛のように聞こえるかも知れないが、こうした独自性があってこそ今の時代に書かれる意味があると思う。本当にただの自画自賛であった。

これは私の持論であるが、歴史小説と時代小説は、同じ棟割り長屋の住人かも知れないが、まったくの別所帯である。市井人情物はその中間で暮らすあだな年増のお師匠さんと言ったところか。主流は歴史小説であり、時代小説は肩身が狭いどころではない。そのことは、棟割り長屋を書店の棚に置き換えて頂くと一目瞭然であるかと思う。我ながらいい比喩であった。

都合のいいときだけSNSの文言を勝手に引用するのはどうかと思うが、ここは御老公に倣って厚顔の一手で締めさせて頂く。
「この面白さを分かち合える人としか友達になりたくない」(つきむら・りょうえ=作家)(三五二頁・六七〇円・徳間書店)
この記事の中でご紹介した本
水戸黄門 天下の副編集長/徳間書店
水戸黄門 天下の副編集長
著 者:月村 了衛
出版社:徳間書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「水戸黄門 天下の副編集長」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
著者から読者へのその他の記事
著者から読者へをもっと見る >
文学 > 日本文学 > 歴史・時代関連記事
歴史・時代の関連記事をもっと見る >