今だけのあの子 / 芦沢 央(東京創元社)常に「別れ」の予感を孕む女の友情  刹那的でも時空を超えてゆるやかに確実に繋がる|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月4日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

常に「別れ」の予感を孕む女の友情 
刹那的でも時空を超えてゆるやかに確実に繋がる

今だけのあの子
著 者:芦沢 央
出版社:東京創元社
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今だけのあの子(芦沢 央)東京創元社
今だけのあの子
芦沢 央
東京創元社
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本作は、「女の友情」をテーマにした連作短篇ミステリである。

と書くと、ああ「イヤミス」か、と思われた方も少なくないのではないだろうか。

実のところ、単行本刊行時に最もかけられたのがその言葉だった。あ、結構ドロドロな感じですか? うわーキツそうですね、と多くの人が自然な流れのように口にし、私が「いえ、そうではないんですよ」と答えると少し意外そうな表情になって「え、でもミステリなんですよね?」と続けたり、「このタイトルなのに?」と首を傾げたりした。

たしかに、「女の友情」といえば脆い、浅い、裏がある……など、ネガティブなイメージがつきまといがちだ。そして実際、それらは事実の一側面ではある。私自身、「親友」という言葉でグループ内にさらに小さなグループを作ろうとすることによって起きるトラブル、誤解や思い込みによって話が余計ややこしくなるケースは何度も目にしてきた。

進学、就職、結婚、出産――とライフステージが変化していくにつれてつき合う人間も変わり、親密な関係を築いていた友達といつの間にか疎遠になるということも珍しくない。

本書に収録されている作品も、設定自体は「親友の結婚式になぜか自分だけが招待されなかった」とか、「中学でできた友人に認められたくて、思わず『漫画家になりたい』という嘘をついてしまい……」といったような不穏なものばかりだし、作中で描かれる友情は常に「別れ」の予感を孕んでいる。

全五話を象徴してつけた『今だけのあの子』というタイトル(収録作の中に「今だけのあの子」というタイトルの短篇はない)も、そうした刹那性を表現した言葉だ。

だが、私はそれをイヤなものだとは思っていない。

たとえ「今だけ」の関係だとしても、そのときそのときで、「あの子がいてくれたからあのとき楽しい時間を過ごせた」「あの子の言葉があったから、あのときつらかったことを乗り越えられた」というのなら、それで十二分に素敵なことなんじゃないかと思うのだ。

関係自体は切れてしまうかもしれない。もう二度と会うことも連絡を取ることもないかもしれない。

それでも、そのとき過ごした時間や交わした言葉は、それぞれの人生の中に確実に残っていく。

だからこそ、本書は連作短篇集という形を取りながら、作品同士にわかりやすい繋がりや連続性はない。一見まったく無関係の独立した物語たちだ。

しかし、注意深く読み比べてみると、それぞれの人物が時間や空間を超えて、ゆるやかに、しかし確実に繋がっていることがわかるはずだ。

ぜひ、その繋がりも発見してもらえたら、作者としては望外の喜びである。(あしざわ・よう=作家)(三〇二頁・七四〇円・東京創元社)
この記事の中でご紹介した本
今だけのあの子/東京創元社
今だけのあの子
著 者:芦沢 央
出版社:東京創元社
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