最低の軍師 / 簑輪 諒(祥伝社)上杉謙信が大敗を喫した謎の軍師  「無双の軍配名人」の活躍と、魅力ある敵役を描く|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月4日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

上杉謙信が大敗を喫した謎の軍師 
「無双の軍配名人」の活躍と、魅力ある敵役を描く

最低の軍師
著 者:簑輪 諒
出版社:祥伝社
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最低の軍師(簑輪 諒)祥伝社
最低の軍師
簑輪 諒
祥伝社
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上杉謙信といえば、数多の戦国武将の中でも、特に人気のある一人です。戦場では生涯を通じてほぼ無敗を誇り、「軍神」とあだ名されたほどの将才や、利害によって行動することが当たり前だった戦国時代にあって、「私欲のための戦はしない」と公言し、義や筋目を重んじた姿勢など、際立って印象的なその人物像が、今日まで敬愛されてきた要因なのでしょう。 

ところで、そんな謙信が、大敗を喫したことがあるのはご存知でしょうか。しかも、味方は一万以上の大軍、敵兵は二千ほどという、圧倒的な兵力差でありながら。この大逆転劇を指揮し、軍神に黒星をつけたのは、武田信玄でも、織田信長でもありません。彼の名は、白井浄三。「無双の軍配名人」との異名を持つ、正体不明の軍師です。 

拙作『最低の軍師』は、この浄三を主人公に、上杉軍を破った「臼井城の戦い」を描いた作品です。 

本作を描こうと思ったのは、私がデビューして間もない頃、最初の担当編集者から言われた、ある一言がきっかけです。 
「ミノワ君、エンターテイメントで大切なのは、敵役だよ。君が、たとえばダースベイダーのように、強大で魅力的な敵を描けたら、その時点で、その物語は『勝ち』だよ」 

デビューした2014年以来、まるで提出し損ねた宿題のように、その言葉は私の頭の片隅に、ずっと引っかかっていました。本作の上杉謙信は、この「強大な敵役」に対する回答でもあります。 

魅力ある敵役の条件とは、どんな形であれ、強固な信念や行動原理を持ち、それを揺らぐことなく貫いていることだと思います。作中の謙信は、一方から見れば曇りなき正義の人であり、別の一方から見れば、恐ろしき災厄のような存在でもあります。その表裏一体の強烈な個性と信念を、逃げずに描くことを目指しました。 

片や、主人公・白井浄三は、この「臼井城の戦い」をのぞいて、活動や経歴がほとんど伝わっていない人です。出自などの伝承もあやふやで、創作の自由度が高いだけに、どのような人物造形にすべきか、ずいぶんと悩みました。 

最終的に出来上がったのは、謙信と対照的な、信念からほど遠い人物です。作中の浄三は、ある過去によって人間に絶望し、詐欺師まがいのことをしながら、終わりの見えない戦乱そのものを、食い物にするようにして生きています。謙信が、統治者の立場から乱世を見てきたように、浄三は社会の底辺からこの時代の裏も表も見てきた男です。 そんな浄三が、はたして臼井城でなにを見て、誰と出会い、どう変わっていくのか。そして、謙信といかに対峙するのか。また、臼井城を攻める、謙信の真意とはなんなのか。

そんなところに注目しながら、本作をお楽しみ頂ければ幸いです。(みのわ・りょう=作家)(四四八頁・七四〇円・祥伝社)
この記事の中でご紹介した本
最低の軍師/祥伝社
最低の軍師
著 者:簑輪 諒
出版社:祥伝社
以下のオンライン書店でご購入できます
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