山に生きる人びと 書評|宮本 常一 (河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月5日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

山人のロマンがくゆる
河出文庫

山に生きる人びと
著 者:宮本 常一
出版社:河出書房新社
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親本は、未來社で、〈双書・日本民衆史〉というのの(2)であります。

これがなかなか素敵な装幀で、うす紫色みたいなのに、いわゆるサンカ文字をあしらっているのです。

はたして、いま、ほんとにサンカ文字なんてあったのか、というのは大方の疑問かと思いますが、山におけるロマンが、この本の中に、民俗学という微妙な、かつある種の情報量にもとづく、宮本民俗学ならましてや、という領域のなかで、いい感じにくゆっているのです。

それは、以下のような目次からも匂ってきます。――「狩人」「サンカの終焉」「木地屋の発生」「九州山中の落人村」「鉄山師」「炭焼き」「杣と木挽」……。

「サンカの終焉」では、大阪天王寺周辺の、ミカン山という、もちろん今はなきサンカ集落――戦前の当時も、もちろんかれらはそこにずっと住んでいたわけではないのですが――を前にして、かれらと宮本とのほのかな交情が描かれます。厳密に、かれらがサンカなのか乞食集団なのか、実際それは厳密に分けられるものなのかどうか、いまやよくわからないかもしれないのですが、とにかくその夕暮れのような交情が、宮本でないとありえないのではないか、というそこはかとない具合なのです。

宮本の、一般的な代表作にあげられる作品は、『忘れられた日本人』、なかでも「土佐源氏」だと思いますが、そうした読後感に通じるものがあります。

同じ章の中で、九州熊本の蘇陽峡に七ツ山のサンカが集住を始める、という記録もあるのですが、どうやらこれはサンカではないらしい、と筒井功さんの本で知りました(わたしが編集にたずさわらせていただいたのですが)。そうしたまぎらわしさ?も含めて、わたしには山の人びとのロマンが、宮本さんから、この本から、感じられるように思うのです。

そういう郷愁ゆえに、この本は売れた、売れている、のだと思います。

その勢いで、やはり同じ双書の『海に生きる人びと』も文庫にさせていただいたのですが、こちらは現在もうひとつです。どうやら、山に較べて海というところは、リアリズムの世界なのかなあ、と感じました。
『山に生きる~』のカバー写真は、軽井沢から霧積温泉(懐かしい『人間の証明』の舞台ですね。西條八十の、お母さん、ぼくのあの麦藁帽子、どこへ行ったんでせうね、という)に行く山道の途中で、わたしがはいつくばって撮ったものです。見る人が見ると、針葉樹で、ちょっと洋風なのですが、いい具合にぼけた感じが、山のロマンを喚起してくれているようにひとり懐かしんでいます。(にしぐち・とおる=編集者)
この記事の中でご紹介した本
山に生きる人びと/河出書房新社
山に生きる人びと
著 者:宮本 常一
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「山に生きる人びと」出版社のホームページはこちら
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