代償 書評|伊岡 瞬(KADOKAWA)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月5日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

自分の中に“彼”を見つけ己に戦慄を覚える
角川文庫

代償
著 者:伊岡 瞬
出版社:KADOKAWA
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代償(伊岡 瞬)KADOKAWA
代償
伊岡 瞬
KADOKAWA
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本作は2014年3月の発売から4年を経て累計40万部を突破した(2018年6月時点/単行本・文庫の累計)ロングセラーであるが、私にとってはそのあまりの胸糞悪さから二度と思い出したくない問題作だ。それほどまでに強烈に心に刻み込まれている。

そう、達也という男の名前とともに。

主人公は小学5年生の奥山圭輔。父と母の親子3人で世田谷区のはずれに住む平凡な男の子だ。しかし、近所の団地に母親の遠縁にあたる浅沼道子と息子の達也が引っ越してきたことから、圭輔の平凡な日常は徐々に崩壊していくことになる。

見るからに品がなくだらしない道子と、圭輔の同級生でもある達也は度々奥山家を訪れるようになる。だが、先輩と女の子に悪戯をした話を自慢げに話したり、粘着質の視線を圭輔の母親に向ける達也に圭輔は徐々に違和感を覚え始める。やがて達也が帰った後、お金や母親の下着が紛失する事件が頻発し…。

外面がよく決して悪意を表に出さない達也の悪行はエスカレートを続け、圭輔の周囲を破壊していく。そして遂に取り返しのつかない凄惨な事件を引き起こしてしまうのだ。

この第1部で圭輔は大切なもの全てを達也に蹂躙され奪い取られてしまう。抵抗する気力も失い全てを諦めた圭輔が、利発な同級生諸田寿人の助けを借り、達也の魔手から逃れられたのは中学卒業時だった。

そして25歳になった圭輔が弁護士として働く第2部は、強盗殺人の容疑で起訴された達也が弁護を依頼するところから始まる。

過去の弱みを握られ、再び悪魔のような男と対峙することを余儀なくされた圭輔は、事件記者見習いとなった寿人の力を借りて達也に立ち向かうことを決意するが…。

土足で理性を踏みにじられるかのようなこの不快感は一体どこからくるのか。全て計算ずくで狙った相手を絶望の淵に追いやる達也は、いわゆるサイコパスともシリアルキラーとも違うような気がする。むしろそうであれば理解しがたいものとして客観的に冷静に捉えられるのかもしれない。おそらくは自分の中に達也を見つけ己に戦慄を覚えるのだ。

「自分は見てただけ、やめなよって注意したんだけど」との傍観や自己保身。

誰かを傷つけたかもしれない自分の悪行を武勇伝のように語る醜い優越感。

理性的に考えてありえない相手に抱いてしまう邪な欲望。

それらとても人には言えない、普段は心の奥底に眠らせているはずの欲望を達也に引きずり出されているのではないか。そして自身の尊厳を守るために、それらの闇を自在に操る達也に抱きかねない禁断の憧憬を排除しようとする本能が、吐き気を催すほどの不快感となって最大級の警報を鳴らしているのではないか。そう感じてしまう。

もしかしたら、それこそがこの作品に触れた者が払う「代償」なのかもしれない。(つるおか・えいじ=カドブンレビュアー)
この記事の中でご紹介した本
代償/KADOKAWA
代償
著 者:伊岡 瞬
出版社:KADOKAWA
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