触発 警視庁捜査一課・碓氷弘一1 書評|今野 敏(中央公論社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月5日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

警察小説の最先端にして中心
中公文庫

触発 警視庁捜査一課・碓氷弘一1
著 者:今野 敏
出版社:中央公論社
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警察小説の人気が続いている。この二十年ほどは、かつて警察小説がこれほど活況を呈したことはなかったと言っていい時代だったような気がする。その意味では、現代日本におけるミステリー状況は「警察小説の時代」と称しても差し支えないかもしれない。

といっても、警察小説が脚光を浴びたのは今回が初めてではない。一九六〇年代から八〇年代にかけても、ちょっとした警察小説のブームがあったが、今ほどの隆盛には至らなかった。ではなぜ今日のブームが生まれたのか。もちろんこれには様々な理由が考えられるが、中でも一番の大きな要素は、作家たちが試みた方法的冒険が功を奏したからではないかと思っている。それまでの警察小説――事件が起こって捜査が始まり、不可解な謎を解き、真犯人に手錠をかけるまでの過程を描くという基本パターンに、捜査する側の刑事や事件関係者たちの立場と人間性を加味し、より重視していくことでまったく新しい地平を切り拓くことに成功したのだ。

これによって警察小説は謎解きミステリーの要素も含みながら、同時に、厳格な階級社会の組織小説、ひとりの家庭人として立ち返ったときの家族小説、時代の流行や世相を描いた風俗小説、被害者やその家族など事件関係者との交流を描いた人情小説、そしてアクションたっぷりの活劇小説といった、どのような相貌も見せることができる小説としての大いなる可能性を押し広げたのだった。

今野敏は、こうした流れの最先端にして中心にいた作家であった。

本書『触発』は一九九六年に発表された作品だが、今読んでも画期的な作品だとつくづく思う。主人公は警視庁捜査一課の碓氷弘一部長刑事。四十六歳。妻と十歳の娘、七歳の息子がおり、これまで特に問題を起こさずに勤め上げてきたので、このまま定年までおとなしく過ごせることだけを考えている。

そんな碓氷の安寧な日常が一本の電話で一変する。当直の日の夜遅く、地下鉄霞ヶ関駅を明朝八時に爆破するという予告電話があったのだ。電話をとった碓氷はそれなりの対応をしたつもりだった。しかし――

翌朝、予告通り霞ヶ関駅のホームで爆発が起こり、死傷者三百名を超える大惨事となったのだ。そのとき、碓氷は何を思ったか。ここが今野敏の警察小説の新しさと奥深さを味わえる肝と言ってよい。何と彼は真っ先に、俺の経歴に傷がついた。どうして、よりにもよって俺の当直のときに……と思うのだ。

こんな警察小説の主人公など、一体どこにいただろう。だがリアリティがある。またその後の上層部の碓氷に対する対応も、おそらくそうなるだろうなと思わせる。が、さあここからの展開が凄い。われらが主人公は、自衛隊から派遣された爆弾処理班の人物と組んで、事件の真相と犯人に迫っていくのだ。

ちなみに碓氷弘一シリーズはこれまで六作出ている。いずれも驚きに満ちた傑作揃いなので、ぜひとも読んでいただきたい。
この記事の中でご紹介した本
触発 警視庁捜査一課・碓氷弘一1/中央公論社
触発 警視庁捜査一課・碓氷弘一1
著 者:今野 敏
出版社:中央公論社
以下のオンライン書店でご購入できます
「触発 警視庁捜査一課・碓氷弘一1」出版社のホームページはこちら
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