きんぴか1 三人の悪党 書評|浅田 次郎(光文社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月5日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

笑いと涙の無頼派ロマン
光文社文庫

きんぴか1 三人の悪党
著 者:浅田 次郎
出版社:光文社
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いったん読み始めると次々にページをめくってしまう。いつのまにか、随分と進んでいて、時間も経っている。『きんぴか』はそういう長編小説である。

笑いも涙もある。ドタバタも、しみじみもある。世間に迎合しない意地もある。日本の歴史に対するまなざしもある。暴力やエロは控えめだが、たまに触れると抑えているだけに奥行きを感じさせる。小説巧者・浅田次郎の力量を大いに発揮した初期の作品だ。

主要な登場人物は三人。いずれも、アウトローといっていいだろう。

「ピスケン」(「ピストルの健太」の略)は十三年間を刑務所で過ごし、仮釈放された元ヤクザ。敵対する暴力団の総長と妻を射殺して伝説的な存在になったが、かつて所属した暴力団からは疎まれている。捨て駒のように扱われたのだ。

「軍曹」は元自衛隊の一等陸曹。自衛隊の海外派遣に反対して一人でクーデターを起こし、師団長に直接に訴えた後で拳銃自殺を図るが失敗した。背景には憲法の名のもとに、戦後社会にきちんと位置づけられてこなかった自衛隊の待遇を憂える思いがある。

「ヒデさん」は元政治家秘書。東大を出て、エリート官僚から秘書になり、将来を嘱望されたが、議員の収賄罪をかぶって逮捕された。有能なのに自己保身ということを知らず、罪を背負ってしまった。

三人ともが行き場のない男たちだ。行動に一本の筋は通っている。ピュアだが、不器用。粗雑だけれど、人情は解する。そんな生き方が災いして、貧乏くじをひき、居場所を失くしてしまった。

三人を集めて立派なアジトを与え、一筋縄ではいかない世直しをさせようとするのが「マムシの権左」。元は暴力団担当の鬼刑事で、警視総監とも長い付き合いである。

三人は自分たちをおとしめた連中に対する報復を実行していく。それが同時に社会の矛盾を照らし、不正を暴く行為になっているところが痛快だ。それぞれ度胸、体力、頭脳のかたまりで、協力することで大きなパワーを持つというのも楽しい。

三人を簡単に「悪漢」と呼びたくない思いにかられる。行動そのものが、世の中のうそを浮き彫りにする「無頼派」とでも呼べばいいのではないだろうか。

わきを固める人物たちも個性豊かだ。組織運営に優れた品行方正で家庭を大切にするヤクザ、「血まみれのマリア」と呼ばれる救命救急センターの看護師、正義感に燃える新聞記者、困っている外国人労働者たちを救済する医師。

三人のピュアな暴走が続き、起伏の多い人間模様が繰り広げられていく中で、シニカルで印象深い警句にも出会える。たとえば、「正義の化身が、良い性格であろうはずがない」という警視総監の思い。何だか、三巻を貫く言葉にも思えてくる。偽善に満ちあふれた社会のありようを相対化する考えだ。

純粋さは裏切られる。それを承知で登場人物たちは全力で生きる。さわやかで、哀愁漂う小説になっている理由だろう。
この記事の中でご紹介した本
きんぴか1 三人の悪党/光文社
きんぴか1 三人の悪党
著 者:浅田 次郎
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
きんぴか2 血まみれのマリア/光文社
きんぴか2 血まみれのマリア
著 者:浅田 次郎
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
きんぴか3 真夜中の喝采/光文社
きんぴか3 真夜中の喝采
著 者:浅田 次郎
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
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