マスカレード・ホテル 書評|東野 圭吾(集英社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

わが社のロングセラー
更新日:2018年8月5日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

犯人の仮面を被っている者は誰なのか
集英社文庫

マスカレード・ホテル
著 者:東野 圭吾
出版社:集英社
このエントリーをはてなブックマークに追加
本書『マスカレード・ホテル』が書籍化されたのは二〇一一年九月だが、この年は東野圭吾のデビュー二十五年にあたり、「作家生活二十五周年特別刊行」が企画され、あいついで三作品が上梓された。加賀恭一郎シリーズの『麒麟の翼』とガリレオシリーズの『真夏の方程式』という二大人気シリーズに続き、企画の掉尾を飾ったのが本書であった。

文庫化されてから四年がたつが、すでに31刷というからびっくり。その文庫化の一月後に、二人の主人公の前日譚を描いた短編集『マスカレード・イブ』が文庫初刊で刊行された。タイミングよく二冊あわせて読みたくなるように仕向けるマーケティングの上手さも売れる秘訣の一つであろう。

最新作は二〇一七年に書き下ろしで刊行された『マスカレード・ナイト』であるが、手元にある本の帯には、シリーズ三作で累計270万部突破と記されている。いやはやすごい数字ではないか。さらに来年正月には本書の映画が、木村拓哉と長澤まさみ主演で公開予定というのだから、売上部数がまた上がるのは確実だ。

品川区で会社員が、足立区で主婦が、葛飾区で高校教師が殺される。連続殺人事件と思われたのは、奇妙な数字のメッセージが残されていたためだ。警察はそのメッセージを解読し、次の犯行が人形町にあるホテル、コルテシア東京で起きる可能性が高いと考え、ホテルの従業員として捜査員を潜入させる。捜査一課の若手刑事、新田浩介が配備されたのは、最も客と接することが多いフロント係としてだった。彼が選ばれたのは英語に堪能なことと、刑事らしからぬ容貌のためだった。新田とコンビを組み、ホテルマンのイロハを教えることになったのが山岸尚美だった。

強面ではないとはいえ、鋭い目つき、言葉遣い、そして歩き方など、新田の振る舞いはホテルマンとほど遠いものだった。容疑者以前に利用客から怪しまれないよう、山岸は新田を厳しく指導する。一方の新田は期待外れの任務への失望もあり山岸に反発する。

本書の魅力の第一は、自分の職業に対するプロ意識のぶつかり合いがあることだろう。反発しあいながら、新田はホテル業務の奥深さを知り、山岸は刑事の洞察力に感嘆する。潜入捜査が日を重ねるに連れ、互いの職業に敬意を抱くようになるのだ。さらにホテルにはさまざまな客がやってくる。備品を盗もうとする客、視覚障碍者を装う老婦人、高飛車な女性客、クレーマー……。

誰もが犯人でもおかしくない。お仕事小説の面白さが、ミッシングリンクを捜すミステリーとしての面白さと分かちがたく結びついている。これがもう一つの魅力であるが、このような難度の高い条件を高い技術でさらりと実現してみせるのも作者ならではである。

ホテルに来る者は「お客様という仮面マスカレードを被っている」。その中で犯人の仮面を被っている者は誰なのか。その秘密は明かせないが、ロングセラーの秘密は、本書の魅力を知ればすでに明らかであろう。
この記事の中でご紹介した本
マスカレード・ホテル/集英社
マスカレード・ホテル
著 者:東野 圭吾
出版社:集英社
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
西上 心太 氏の関連記事
東野 圭吾 氏の関連記事
わが社のロングセラーのその他の記事
わが社のロングセラーをもっと見る >
文学 > 日本文学 > ミステリー関連記事
ミステリーの関連記事をもっと見る >