奇跡の人 The Miracle Worker 書評|原田 マハ(双葉社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月5日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

女性たちの闘いの記録と「奇跡」
双葉文庫

奇跡の人 The Miracle Worker
著 者:原田 マハ
出版社:双葉社
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今年一月の刊行以来、すでに十万部近い部数に達している原田マハ『奇跡の人』。それほどの支持を得た理由は、誰もが知る有名な「あの物語」を日本に置き換えたという構成の妙と、そこに込められた思いにある。

明治二十年(一八八七年)の青森県中津軽郡弘前町(現在の弘前市)に、東京からひとりの若い女性がやってきた。弱視というハンデを持ちつつ、アメリカに留学して最高級の教育を受けた彼女は、伊藤博文伯爵の紹介で、弘前に住む少女の家庭教師をすることになったのだ。しかしその少女は、生まれてまもなくの大病で、盲聾唖の三重苦を抱えているという……。

少女の名は介良(けら)れん。

家庭教師の名は去場安(さりば・あん)。

もうおわかりだろう。本書はヘレン・ケラーとアン・サリヴァン女史の物語を、津軽を舞台に翻案・再構成しているのである。二人が出会ったのが明治二十年の春というのも、本家と同じ設定だ。

物語はそこから、ヘレンとサリヴァンの物語に添う形で進行する。暗い蔵に閉じ込められ、本能の赴くままに手づかみで食べ、動き回り、泣き叫ぶれん。排泄の躾すらできていないれんに、「気品と、知性と、尊厳を備えた『人間』になってもらうために」根気よく言葉を教える安。クライマックスはもちろん「水」の場面だ。

では、なぜ明治の津軽に置き換えたのか。実は津軽でなくてはならない理由がある。

本書には、ヘレンとサリヴァンの話にはないオリジナルな出会いがふたつ用意されている。ひとつは霊を降ろすイタコ。もうひとつはボサマと呼ばれる門付け芸人(家々の玄関で音曲などを披露し、食べ物やお金を貰う人々)である三味線弾きの少女、キワだ。イタコもキワも、ともに盲目の女性である。

イタコとボサマ。どちらも津軽特有の風習である。いずれも社会的身分という点では最下層だったが、それでも当時の津軽には、技術さえ磨けば障碍を持つ女性が食べていけるだけのシステムがあったのだ。

そんな女性たちと蔵に閉じ込められていたれんを出会わせ、さらに海外で学んできた安を入れることで、女性でも、障碍があっても、自立できるのだということを本書は描いているのである。だから本書の舞台は、明治の津軽でなくてはならなかったのだ。

これは、闘いの記録だ。弱視の安、盲目のイタコとキワ、そして三重苦のれん。多くの安やキワやれんの闘いが、今日の女性や障碍者の進む道を広げてくれた。これこそが本書における「奇跡」なのである。

もちろん、現代においても女性や障碍者に対する差別は多く残っている。けれどこうした先人たちと同様に、後に続く私たちが闘い続けることで、きっと未来はもっと素晴らしいものになる。

奇跡は終わらない。本書は高らかに、そう謳いあげているのだ。
この記事の中でご紹介した本
奇跡の人 The Miracle Worker/双葉社
奇跡の人 The Miracle Worker
著 者:原田 マハ
出版社:双葉社
以下のオンライン書店でご購入できます
「奇跡の人 The Miracle Worker」出版社のホームページはこちら
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