海が見える家 書評|はらだ みずき(小学館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月5日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

波に乗る、きっかけについて
小学館文庫

海が見える家
著 者:はらだ みずき
出版社:小学館
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海が見える家(はらだ みずき)小学館
海が見える家
はらだ みずき
小学館
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今日から会社には行きません。

辞めさせていただきます。
『海が見える家』の書き出しは、就職をしたばかりの主人公が、会社の上司宛に送った一通のメールから始まります。

もう十年以上前の話ですが、じつは僕が会社勤めをしている際、同じようなメールを若い社員から受け取った経験があります。この作品を書くにあたって、視点をそんな若者の立場に替えて書いてみようと思いました。

小説家になる以前、僕自身、何社も会社を辞めてきました。上司の目からは、不遜な社員に映った場面もあったでしょう。主人公同様、社会の波に乗るのは、正直うまくなかったようです。

そんな僕ですが、本書を書く機会をもたらしてくれたのは、なぜか最初に辞めた会社の元上司でした。その方が印刷会社のK氏に僕のことを話し、K氏が編集者のSさんに伝えたところ、彼が僕の書いた『帰宅部ボーイズ』を読んで気に入ってくれていたこともあり、引き合わせてくれたのです。

K氏とSさんとに最初に会ったのは、神保町の「ランチョン」。記憶は定かではありませんが(たぶん二人がサーファー仲間だったから)、生ビールを飲み交わすうちに、話題はサーフィンに移行しました。

僕は二十代のとき、旅先のハワイでひとりボードを借り、一度だけサーフィンに挑戦したことがありました。まったくサーフィンの知識はなく、波には乗れませんでした。そんな話をしたところ、もう一度チャレンジしてみませんかと誘われました。

最初は仕事に関係なく、サーフィンを教えてもらえるならと思い、Sさんと一緒に千葉の海へ向かいました。彼の教え方がよかったのでしょう。運よく僕は波の上に立つことができました。その後も何度か場所を変え、一緒に海へ出かけました。

平日の昼間から、なぜ僕らは仕事もせず波乗りをしているのか。そう思う瞬間もありましたが、年甲斐もなく楽しんでもいました。その帰り道、ウエットスーツを脱いだSさんが編集者の顔になって、サーフィンをモチーフとした小説が書けないだろうか、と切り出したのです。

子供の頃から海が好きで、いつかは海辺の街を舞台とした小説を書きたいと思っていたこともあり、その話をお受けしました。

その後、雑誌での連載を終え、単行本となった本作は、残念ながら初版止まり。それでも文庫化にあたり、原稿を推敲し、Sさんとタイトルや装幀を話し合い、再び『海が見える家』を世に送り出しました。

発売から間もなく、Sさんから電話があり、「重版決まりました」という、うれしそうな声を聞きました。その後、重版がかかる度に、彼は電話をくれ、発売を一年待たずにして現在七刷り。文庫のほうは、どうやらうまく波に乗ってくれたようです。

本書のテーマである、幸せとはなにか、について、これからも人々の日常を通し、小説のなかで問い続けたいと思っています。
この記事の中でご紹介した本
海が見える家/小学館
海が見える家
著 者:はらだ みずき
出版社:小学館
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