流転の海 第一部 書評|宮本 輝(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月5日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

交錯する人生、骨太な畢生の物語
新潮文庫

流転の海 第一部
著 者:宮本 輝
出版社:新潮社
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流転の海 第一部(宮本 輝)新潮社
流転の海 第一部
宮本 輝
新潮社
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宮本輝、畢生の大作「流転の海」シリーズが完結した。

このシリーズ第一作「流転の海」が書き始められたのは37年前、1981年のことである。宮本輝34歳。当初、福武書店の雑誌連載から始まり、その後、新潮社に移り、単行本も新潮社から出し直されている。

『流転の海』が新潮文庫として出されたのは1990年の4月、それ以来28年間で56刷、78万部を売るロングセラーである。

長い物語である。

「流転の海」シリーズと名付けられ、単行本8冊、文庫7冊が出ている。

第二部は『地の星』、第三部が『血脈の火』、第四部『天の夜曲』、第五部『花の回廊』、第六部『慈雨の音』、第七部『満月の道』、第八部『長流の畔』、第九部「野の春」。

「野の春」の雑誌での連載が、先だって完結した。(「新潮」7月号。単行本は10月刊行)。

34歳から書き始められた物語は、著者71歳で書き終えられた。畢生の、という言葉がこれほど似合う作品もないだろう。

自伝的大河小説と称されることもあるが、主人公(のモデル)は著者の父である。息子が生まれる1947年(昭和22年)から物語は始まる。



家族の物語ではない。人生そのものが描かれている。

主人公とその家族の人生を中心に、同時にいくつもの交錯する生が描かれていて、それぞれの姿が真に迫ってくる。

大河小説とは、何人もの登場人物を描く小説のことも指すが、まさにそういう骨太で広大な物語世界が広がる。もとになる事実はあるのだろうが、いろんなところに作者の鋭い想像力と創造力が発揮されているのもわかる。

第一部『流転の海』を読むと、その深さがわかる。

ここに描かれているのは、敗戦直後の大阪で、五十にして初めて子供を持った男の「人生の迷い」である。そして“喪失”の物語にもなっている。

四十代の戦争前、商売で成功して時流に乗っていた主人公は、五十にして子供を得るが、時代も変わり、徐々に商売の一線から退いていくことになる。身内だったものたちが、次々と自分から離れていくのを静かに眺める。

ままならぬ人生のさまが、ふだんの生活を通して、しっかり描かれている。

さりげなくて、そして、すさまじい小説である。

主人公と関わる人たちも、また、強く印象づけられる。交錯する人生にも、いろんな悲哀がある。



宮本輝の父親が本当にこういう人物であったかのかどうかは、読んでいると、どうでもよくなってくる。

そこに、懸命に生きている人がいる。それを感じられるだけで十分である。

小説のおもしろさを、これほどヴィヴィッドに感じさせてくれる物語も珍しい。

成功していく話でもなく、また鬼面人を脅すような展開があるわけでもない。そういう点では地味である。しかし、小説としての圧倒的な吸引力は尋常ではない。読み始めると小説の力によって、まったく別の地平に連れていかれるのをひしひしと感じる。

昭和の物語として、長く読み継がれることは間違いがない。

まさに、時代を越える名作である。
この記事の中でご紹介した本
流転の海 第一部/新潮社
流転の海 第一部
著 者:宮本 輝
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
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