銀花 風の市兵衛 弐 書評|辻堂 魁(祥伝社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月5日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

あの日、風が吹いた。
祥伝社文庫

銀花 風の市兵衛 弐
著 者:辻堂 魁
出版社:祥伝社
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銀花 風の市兵衛 弐(辻堂 魁)祥伝社
銀花 風の市兵衛 弐
辻堂 魁
祥伝社
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あの日、風が吹いた。二〇一〇年三月に刊行された、辻堂魁の文庫書き下ろし時代小説『風の市兵衛』のことだ。この作品、とにかく読み味が、吹く風のごとく、爽やかであった。

物語の主人公は、侍でありながら渡り用人をしている唐木市兵衛。ちなみに渡り用人とは、旗本家などに雇われて、経理を中心とした家の面倒を、期限付きで見る仕事である。主人公の設定を知っただけで、バラエティに富んだストーリーが期待できよう。事実、旗本・高松家に雇われた市兵衛は、いつしか大きな事件の渦中に踏み込んでいくことになる。

その市兵衛が、実に魅力的だ。痩身白皙で、ちょっと頼りない雰囲気を持っているが、見かけに騙されてはいけない。実務は有能、人柄は円満。懐の大きな男の肖像が、しだいに立ち上がってくるのだ。しかも剣の達人である。かつて上方で“風の剣”を使い、風の市兵衛と呼ばれていたほどだ。その風の剣を、許すことのできぬ悪党に振るう。チャンバラ・シーンの迫力は、興奮必至である。

これだけ面白ければ当然だが、本書はすぐさまシリーズ化された。市兵衛の兄で、十人目付筆頭格の片岡信正。信正の配下の返弥陀ノ介。蘭方医の柳井宗秀。北町奉行所定廻り同心の渋井鬼三次などの脇役陣も、巻を重ねるにつれ存在感を増していく。また、市兵衛の過去が明らかになる『風立ちぬ』や、信正と弥陀ノ介の窮地を助ける『乱雲の城』など、シリーズの要所で読者の興味を強く惹く作品を投入しているのも、エンターテインメント作家の、したたかな手腕といっていい。個人的には市兵衛が、大名の姫君を守りながら敵中突破をする『月夜行』が大好きだ。

さらにシリーズが続くにつれて、大きなテーマが見えてきた。家族である。市兵衛を中心とした人の輪は、あたかもひとつの家族のようだ。その一方で、多くの事件や騒動を通じ、さまざまな家族の姿が捉えられている。単に主人公が痛快な活躍をするだけではなく、誰もが自分のこととして考えられる家族をテーマにしているからこそ、本シリーズはロングセラーになるほどの、人気を獲得したのではなかろうか。

本シリーズは、第二十弾の『架け橋』でファースト・シーズンの幕を下ろした。そして『曉天の志』からセカンド・シーズンに突入。現在も順調に新作が刊行されている。

さらに今年の五月十九日から、本シリーズを原作にした、NHK土曜時代劇『そろばん侍風の市兵衛』が放送された。主演は向井理。近年のテレビ時代劇の中でも特筆すべき、優れた作品になっていた。これによりシリーズは新たな読者を得て、ロングセラー街道を、どこまでも驀進することだろう。

あの日、風が吹いた。その風が止むことはない。唐木市兵衛の物語がある限り、今も、これからも、多くの読者の心が、爽やかな風を感じるのである。
この記事の中でご紹介した本
銀花 風の市兵衛 弐/祥伝社
銀花 風の市兵衛 弐
著 者:辻堂 魁
出版社:祥伝社
以下のオンライン書店でご購入できます
「銀花 風の市兵衛 弐」出版社のホームページはこちら
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