卒業 書評|東野 圭吾(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月5日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

加賀恭一郎の、作家東野圭吾の原点
講談社文庫

卒業
著 者:東野 圭吾
出版社:講談社
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卒業(東野 圭吾)講談社
卒業
東野 圭吾
講談社
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東野圭吾は、『放課後』で第三一回江戸川乱歩賞を受賞して一九八六年にデビューした。その翌年に発表した受賞第一作、すなわち著者が初めてプロ作家として世に送り出した小説が、本書『卒業』である。そしてこの『卒業』で、加賀恭一郎も初めて読者の前に姿を現した。加賀恭一郎といえば、最近では、彼が登場するシリーズの第十作『祈りの幕が下りるとき』が映画化され、阿部寛が演じたことを記憶している方も多かろう。その東野圭吾を代表するシリーズキャラクターと、プロ作家・東野圭吾は、そう、この『卒業』でともにスタートを切ったのである。

大学四年生の秋、施錠された下宿の一室で祥子が死んだ。手首を切っていたが、自殺とは断定できない状況だった。祥子の仲間である相原沙都子と加賀恭一郎は、祥子の死について調べ始める。だが、彼等が真相に行き着く前に、仲間がまた一人命を落とした……。

当然といえば当然だが、三一年前の加賀恭一郎は、驚くほどに加賀恭一郎だった。関係者と丁寧に向き合い、証言を得て、事実を見て、一歩ずつ真実に近付いていく。この足の運び方は、刑事か大学生かという立場の相違こそあれ、シリーズ第十作まで変わらない。その“変わらなさ”が、読み返してみると、実に新鮮だ。

特に、真相を把握してからの動き方が同じだ。関係者を集めて得々と己の推理を披露したりはしない。犯人のみならず事件関係者のそれぞれを思いやったうえで、傷つく者が最小になるように、あるいは当事者が適切な判断を自主的に行えるように、彼は動く。謎を解くだけではなく、真の意味で事件の解決者という役割を果たすのである。

加賀という人物を知る上では、彼が剣道の学生チャンピオンの座を懸けて勝負する姿も読みどころだ。このシーンは、彼が真相に至る道筋の一ステップではあるが、加賀という勝負師の心がくっきりと描き出されていて、ファン必読の名場面となっている。

また、シリーズ後半、特に第七作『赤い指』から第十作『祈りの幕が下りるとき』にかけてクローズアップされていく加賀と両親の関係が、第一作で言及されている点にも注目したい。東野圭吾が三〇年を費やして掘り下げていった加賀の家族の物語は、この『卒業』で、たしかに始まっていたのである。

そうした連続性の一方で、加賀が挑む謎そのものは、最新作とは相当に異なる。むしろ、ガリレオこと湯川学が挑んだ方がよさそうな要素も含まれているし、茶会での雪月花というゲームについての図版の多さも印象的だ。とはいえそれらの仕掛けは登場人物たちの心の動きと鮮やかに重なって用いられていて、その意味では、やはり変わらない点でもある。

加賀恭一郎の、そしてプロ作家・東野圭吾の原点である『卒業』。昭和六二年刊行のこの作品は、昭和が平成に変わり、平成も終わろういう今日でも、色褪せずに輝いている。
この記事の中でご紹介した本
卒業/講談社
卒業
著 者:東野 圭吾
出版社:講談社
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