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更新日:2018年8月6日 / 新聞掲載日:2018年8月3日(第3250号)

文庫と作家
新しい読者の入り口 作家・額賀 澪

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風に恋う(額賀 澪)文藝春秋
風に恋う
額賀 澪
文藝春秋
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「新人作家の単行本はびっくりするくらい売れないから」
「とりあえず、文庫が出るまで頑張って」

作家デビューした直後、いろんな人からそう言われた。二〇一五年の夏のことだ。それからおよそ三年がたち、私は十冊の単行本を刊行した。一冊出すたびに、「びっくりするくらい売れない」という言葉の意味を噛み締めることになった。

文庫本の多くには、親本と呼ばれる元となった単行本が存在する。単行本が刊行されて数年たってから廉価版として刊行されることが多いが、最近は文庫書き下ろしという形で世に送り出される作品もたくさんある。

大学時代、私はとんでもなく貧乏だった。飲食と家庭教師とライターのバイトを掛け持ちして、空いた時間で小説を書いて過ごしていた。書店に行っても、単行本の小説を買うことができなくて、もっぱら大学と街の図書館のお世話になった。文庫本でさえ、「この本を買うお金って一日分の食費より高いな……」などと考えながらレジに持っていった。

普通の大学生に比べたら本を読む方だったはずの私でさえ、なかなか単行本に手を出せなかったのだ。自分の単行本がそう易々と売れるわけがない。しかし、ポジティブに捉えるなら、一つの小説に単行本と文庫本と、二回のチャンスがあるとも考えることができる。
二〇一六年に『さよならクリームソーダ』という単行本を出して、二〇一八年の六月に文庫になった。単行本のときとは明らかに読者層が異なり、これまで私の本を読んでいなかった人が『さよならクリームソーダ』を手に取ってくれたことを実感した。文庫が新しい読者の入り口になった。そうか、本はこういう形でリスタートを切ることが許されているのか。なら、「本が売れない時代だから」と言われていようが何だろうが、まだまだやれることはたくさんありそうだ。そんな風に思わせてくれた。

文庫になってしまったら、親本である単行本は当然売れなくなるし、そのうち絶版になる。本を読んでくれるならどちらを好きだって構わないし、どちらにもメリットとデメリットがある。しかし、来年生きているのか死んでいるのかもわからない若手作家からすれば、文庫本は作家・額賀澪の名前を広めてくれる心強い存在だ。

この七月に、私は『風に恋う』という吹奏楽小説を刊行した。この本も二年後に文庫になるだろう。そのとき、単行本では出会えなかった読者に出会うだろう。気が早いかもしれないが、実は今からそれを楽しみにしている。
この記事の中でご紹介した本
さよならクリームソーダ/文藝春秋
さよならクリームソーダ
著 者:額賀 澪
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
風に恋う/文藝春秋
風に恋う
著 者:額賀 澪
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
「風に恋う」出版社のホームページはこちら
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