ハーレーじじいの背中 書評|坂井 希久子(双葉社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月12日 / 新聞掲載日:2016年5月27日(第3141号)

ハーレーじじいの背中 書評
「じじいヒーロー」の誕生 
孫さらいで始まった旅から家族再生の旅へ

ハーレーじじいの背中
著 者:坂井 希久子
出版社:双葉社
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週に何時間か高校で教えていて思うのは、いまの高校生は素直でやさしい子が多いなあということである。いいかえれば、周りに気を遣って自己主張することがない。控えているのかもしれないし、主張するほどの「自己」を感じていないのかもしれない。

主人公の真里菜も、そんなイマドキの高校三年生である。成績優秀で医学部をめざしているが、確たる動機があるわけではないし、銭湯だった家がタワーマンションになってしまったのは、自分の学費を捻出するためだと思って責任を感じている。家族のありようもなかなかに難儀で、同居する父母+双方の祖父母のうち、働いているのは真里菜の母のみ。父および父方の祖父母は家でゴロゴロしているし、母方の祖母である「清ばあ」は惚けがすすみ――となれば、真里菜でなくとも長大なため息が出るだろうが、「ききわけの良い」真里菜は、そうした不安を自分の胸に押し込めてすごしている。

さて、残る家族の「晴じい」は「清ばあ」の亭主なのだが、これが問題児、いや問題じじいである。ごついハーレー・ダビッドソンを乗りまわして日本じゅうを放浪し、家にはほとんど帰ってこない。身長百八十センチで筋肉質という、およそ年寄りらしからぬガタイを持つこの祖父と、ある日真里菜は旅に出ることになる。勢いでまたがったハーレーのタンデムシートごと、さらわれてしまったのだ。孫をさらう祖父っていったい……。

しかし、この旅と旅で出会った人たちが、真里菜と真里菜の家族を変えていく。山形のスイカ農家では、フィリピンからやってきた嫁の存在を認めない姑におどろき、田舎を厭いつつも、ここで生きていくと語る同年代の娘に共感をおぼえる。相模湖ちかくの限界集落では、ひきこもりだった青年が、村の活性化のために一念発起する現場に立ちあう。「良い子」だった真里菜も、自分の将来について真剣に考え始めるようになるのだ。

そして、家族をかえりみず遊んでいるだけだと思っていた祖父の意外な素顔を知ることになる。祖父だけではない。父や「清ばあ」、そして母にも、真里菜の知らない歴史があった。その「歴史」が家族を結びつけ、再生へと向かわせる。孫さらいで始まった旅は、家族再生の旅へと変貌していくのだ。

なにより、冒頭では胡散臭い印象だった「晴じい」が、物語がすすむにつれてどんどんカッコよくなっていくのがすごい。映画の主役だって張れそうだ。新しい「じじいヒーロー」の誕生といってもいいだろう。

こんな「じじい」が増えたら、世の中はもっと楽しくなるだろうと思うし、真里菜と似たような悩みを抱えている高校生もきっと多いだろう。かろやかな文体で綴られているが、現代社会の抱える問題がたくみに縫い込まれているのも読みどころ。ラストちかく、「清ばあ」にちょっとした奇跡が起きる場面はほろりとくる。作者の真骨頂だ。
この記事の中でご紹介した本
ハーレーじじいの背中/双葉社
ハーレーじじいの背中
著 者:坂井 希久子
出版社:双葉社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ハーレーじじいの背中」出版社のホームページはこちら
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