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”Letter to my son"
更新日:2018年8月14日 / 新聞掲載日:2018年8月10日(第3251号)

Letter to my son(3)

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(c)Eiki Mori Courtesy KENNAKAHASHI
力の抜けた指先から、うなだれた手首、細く弾力のある若々しい腕、首から無精髭が少し伸びた顎から頬へ。ゆっくりと輪郭を指でなぞる。

僕の生まれる前年の1975年に撮影された、写真家・ロバートメープルソープのセルフポートレート。真っ白な壁の前で片手を水平に伸ばし無邪気に笑いながらカメラを見つめている。その写真の切り抜きをお守りのようにリュックに忍ばせ、1999年の夏、僕はニューヨークに降り立った。写真専攻の留学生だった僕は、夏の間、寮から通いながら英語クラスを受けていたけれど、新学期に向けて、新しく暮らすところを探し始めていた。

その日もとても暑く、チャイナタウンの裏路地で偶然見つけたカフェで一服していたら、目の前を珍しく日本人が通りかかった。真っ白な半袖シャツに黒いパンツ。首からSONYのビデオカメラを斜めにぶら下げている。40歳ぐらいだろうか。頬に落ちてゆれる、まつげの影がとても綺麗だなと思った。彼の姿を目で追っていると、店の女の子が急に肩をたたいてきて、店内の掲示板を指差した。冷房の風にふわりふわりと揺れている1枚の真っ白な紙。中国語と英語と日本語が並んでいる。それはルームメイト募集の張り紙で、少し神経質そうな青い文字が整然と並んでいる。簡単な部屋紹介と家賃、連絡先が書かれていた。

今、僕は、部屋から夕陽に燃やされたように真っ赤に輝くツインタワーを眺めている。でっかいピースサインみたいだ。“窓からはツインタワーが見えます”と書かれていた張り紙を思い出す。「窓からは“でっかい”ツインタワーが見えます、だよね」とひとりごちながら詩人の帰りを待っている。
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