8歳から80歳までの世界文学入門  対話で学ぶ<世界文学>連続講議4 書評|沼野 充義(光文社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年10月21日 / 新聞掲載日:2016年10月21日(第3161号)

8歳から80歳までの世界文学入門  対話で学ぶ<世界文学>連続講議4 書評
「べらぼうにおもしろい」対話集 著者とゲストが生み出す鮮やかな化学反応

8歳から80歳までの世界文学入門  対話で学ぶ<世界文学>連続講議4
出版社:光文社
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本書は、東京大学教授であり、ロシア・ポーランド文学研究家、翻訳家、文芸評論家としても活躍する沼野充義が、五人のゲストを迎えて公開講義として行った対話を収録した対話集である。

ゲストの顔ぶれが豪華だ。小説家の池澤夏樹と小川洋子、翻訳家の青山南、岸本佐知子、そしてマイケル・エメリック。小説を読む者であれば、いったいどんなことが語られるのだろうかと期待せずにはいられない。『8歳から80歳までの世界文学入門』という題名でありながら対話集であることを少し不思議に思いながらも、ご馳走を前に舌なめずりするような心持ちで表紙を開いた。そして夢中になった。ありていに言えば、「べらぼうにおもしろい」のである。

対話集、対談集と銘打たれた本はあまた存在し、対話形式の記事を掲載する雑誌も実に多い。意表を突いた組み合わせや有名人同士の顔合わせに興味を惹かれ、そうした本や雑誌を手に取ってみるものの、本当に満足することは案外少ないように思う。通り一遍な内容に物足りなさを感じたり、難しい言葉の連続にいささかうんざりさせられたり。そこのところ、もうちょっと掘り下げて欲しい、かみ砕いて欲しいと思ってしまうことが多い。 本書の面白さの一番の鍵は、その「もうちょっと」のところがしっかり押さえられているところにあるのではないだろうか。

一例を挙げたい。著者は小川洋子に、「なぜ小説を書くの」かと問いかける。これに対し、小川は「そこに書かれるのを待っている物語があるから」だと答える。なるほど、小説家の内にはすでに物語が存在していて、言葉で表現されるのを待ちかまえているのだな、と思う。しかし、著者はここでもう一歩踏み込んでみせる。「でも人間としてこの世に生きている以上、現実を無視するわけにはいかない」、「物語を紡ぎ出す」のは、「物語でなければ表現できない、あるいは対処できないようなことが(現実に)あるからなのでは」、と。この問いが引き出した小川の答えは深い。ぜひとも本書を読み、確認して欲しい。

五つの対話で語られるのは、古事記や源氏物語といった古典から現代小説に至るまでの日本文学、時代も国もさまざまな世界の文学や小説家、絵本、児童書と多岐に渡り、専門的な部分に言及されることも少なくない。しかし、それほど一般的ではないと思われる固有名詞や用語にはわかりやすい説明がさりげなく挿入されており、読み手が煩わしく感じないような配慮もなされている。読者は、著者とゲストが生み出す鮮やかな化学反応を楽しみながら、自然といろいろな文学と出会っていくことになる。本書はまさに「世界文学入門」書なのだ。

また、翻訳について一貫して取り上げていることも本書の特徴だろう。ここでの翻訳は、単に外国語と日本語を置き換えるというものに留まらない。そのままでは意味のわからないものを理解できるようにするため、ひいては、人間が二人いれば必ず生じるコミュニケーションの齟齬を埋めるために必要なものであり、だからこそ翻訳は面白いのだと著者は言う。

あとがきには、この難しい時代になぜ文学が必要であるかについての考察があり、嬉しいことに、去年ノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチについての、著者ならではの解説もある。読み終えた時、私は文学や翻訳というものに対する考え方がぐっと広がるのを感じた。この本と出会えたことをとても幸福に思う。
この記事の中でご紹介した本
8歳から80歳までの世界文学入門  対話で学ぶ<世界文学>連続講議4/光文社
8歳から80歳までの世界文学入門  対話で学ぶ<世界文学>連続講議4
著 者:沼野 充義
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
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