『デュー・ブレーカー』 刊行記念イベントレポート  講演:山本伸&朗読:阿部壽美子|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2018年8月10日 / 新聞掲載日:2018年8月10日(第3251号)

『デュー・ブレーカー』 刊行記念イベントレポート 
講演:山本伸&朗読:阿部壽美子

このエントリーをはてなブックマークに追加
エドウィージ・ダンティカの二作目の短篇集『デュー・ブレーカー』(五月書房新社)が邦訳刊行された。

ダンティカはハイチ系のアメリカ人作家で、二〇一八年度のノイシュタット国際文学賞を受賞。これは近年、ノーベル文学賞に次ぐといわれる文学賞である。デュバリエ独裁政権下の民衆弾圧や、隣国ドミニカによる虐殺など、ハイチに残る暗い記憶と社会背景を、静謐で抒情的な筆致に込めるダンティカ。今回は、絶版になっていた一冊目の短篇集『クリック?クラック!』も、合わせて新装復刊された。

二冊の刊行を記念して七月二十九日、三省堂書店池袋本店で講演&朗読イベントが行われた。その模様をレポートする。
第1回
キッチン・ポエット

山本 伸氏
最初に、英語圏カリブ文学の専門家で、本書の訳者である四日市大学教授・山本伸氏が登壇した。

「エドウィージ・ダンティカは、ハイチの首都ポルトープランスで一九六九年に生まれました。

彼女はニューヨークのバーナード大学から、ブラウン大学の大学院へ進み、クリエイティブライティングを学んで、修士論文を元に書いた小説『息吹、まなざし、記憶』でデビューしました。バーナードカレッジは、コロンビア大学の一角を占める名門女子大で、僕もコロンビア大学の大学院に留学していたので、ちょっとした縁があります。

そもそも僕がなぜカリブ文学を専攻し、ニューヨークに留学したかというと、アメリカの黒人に興味があり、ハーレムに住んでみたかったんです。そうこうするうちに、アメリカの黒人文学も、アフリカ文学も、研究されるようになってきました。ただその間を結ぶカリブ海の文学を専攻する人は、ほとんど日本にはいなかった。

ノーベル文学賞を受賞したトニ・モリスンというアメリカの文学者と並び称される、黒人作家の草分け的なポール・マーシャルという女性作家がいます。あるとき彼女に「誰か、これから世に広めたい作家はいませんか」と尋ねると、まっさきに挙がったのが、エドウィージ・ダンティカの名前でした。

エドウィージは、ポールのことを非常に尊敬しています。「キッチン・ポエット」――日本語にすると「台所詩人」ということになりますが、主婦でありながら、詩を書き、文学活動をするということです。ハイチは、女性の一〇本の指は全て、父や祖父や息子など他人のために使う、自分のために使う指など一本もない、と言われるような非常に封建的な国なんです。その中で、女性が物を書いて発信するというのは、かなり大胆なことなんですよね。でもその中で、ポール・マーシャルは、書いていく、という覚悟を決めた女性作家でした。ポールとダンティカは、共鳴し合っていた。そのポールに、「ぜひエドゥージ・ダンティカの本を読んでみてほしい」と。読んで、一も二もなくこれは翻訳されるべき作品だ、と思いました」と、ダンティカ作品との出合いを語った。
日本とハイチ

また、ダンティカの作品について、「日本人の感性にとても近いところがある」と、山本氏。「カリブ系は、発祥はだいたいアフリカなのですが、ヨーロッパに対して、アジア・アフリカがひとくくりになっているようなところが、あるように思います」と言い、『クリック?クラック!』刊行時の、ダンティカの来日の思い出を語った。 「いくつか印象深い思い出がありますが、一つは先祖の話なんです。ハイチでは、先祖が自分の頭の後ろ辺りに浮かんで、自分たちを見下ろしていると信じられている、というのです。僕も小さいとき祖母から、一人でいてもいつもご先祖様が見ているのだから、悪いことをしてはいけないよ、と言われていましたから、同じだなと。見えない世界とのつながりを大事にする習慣が、日本にもハイチにも、同じようにあるのだと感じたんです。ハイチも日本も、基本は多神教です。アニミズム的な世界のとらえ方が、共通しているように感じます。

それから母親への気遣いのようなもの。彼女はかわいらしいんですよ。お母さんに絶対にばれてはいけない、と夜中にこっそりホテルの部屋を出て、タバコを吸っていたんです(笑)。僕も一緒に、中学生みたいに、隠れてタバコを吸ったことがありました。なんだかそのときも、ハイチと日本の物理的な距離が消えて、身近に思えたんですよね。彼女の作品にも、家族の絆や、特に母と娘というものが、よく描かれます」

『デュー・ブレーカー』に、「水子」という一篇がある。「日本の伝統を真似て、登場人物が堕胎した子どもを祀るための、小さな祭壇を部屋に設けるんです。京都で、彼女と寺社を巡っている間に、水子地蔵に遭遇しましたが、そのときにインスピレーションを得たものかもしれません。でも日本的な習慣を、ニューヨークを舞台とする小説に描き込もうと思うかどうかは、本人の内面性によりますよね。彼女は、日本的なものと感覚が合ったのだと思うんです。

一見、ハイチという国は日本から遠く感じられますが、感覚は近いと思います。人種や肌の色は関係なく、何か共通するものを持っているのではないかと思います」と話した。
2
この記事の中でご紹介した本
デュー・ブレーカー/ 五月書房新社
デュー・ブレーカー
著 者:エドウィージ・ダンティカ
出版社: 五月書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「デュー・ブレーカー」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
文学 > 外国文学 > アメリカ文学関連記事
アメリカ文学の関連記事をもっと見る >