マツダがBMWを超える日 クールジャパンからプレミアムジャパン・ブランド戦略へ 書評|山崎 明(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月11日 / 新聞掲載日:2018年8月10日(第3251号)

〈モノの価値〉の捉え方 
日本と欧州の生活者意識の成熟度

マツダがBMWを超える日 クールジャパンからプレミアムジャパン・ブランド戦略へ
著 者:山崎 明
出版社:講談社
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著者は、大手広告代理店で、長年クルマのブランディングに関わってきた。担当したメーカーは、日系メーカーと欧州メーカー。プレミアムブランドの展開を拡大しようとする大衆ブランドの日系メーカーと、欧州のプレミアムブランドのメーカーである。

日系メーカーは、プレミアムブランドを新しく作ろうとし、大衆ブランドとの差別化のため、全く新しい考え方による消費者との接点を作る。そこで販売される商品も、大衆車と完全に区別した考え方によるプロダクトを用意する。しかしながら、数年経てば、そのビジョンは揺れ、当初のフィロソフィーすら変わり始める。環境に即して変わっていいことと、変わってはいけないことがある。肝心の核心の部分がぶれていることを著者は見抜く。日系メーカーは、個性に乏しい。大衆車としてのシェアは取れるが、富裕層相手の、個を強く打ち出したキャラクターは作りえない。一統したブランドの持つアイデンティティに共鳴させることが不得意である。

対して、欧州メーカーは、一統したフィロソフィーにてプロダクトの進化を続け、情報発信においても、エモーショナルな価値の高揚に邁進する。欧州メーカーは、ブランドアイデンティティが一貫しており、このブランドはこういうイメージだ、ということがぶれない。そのイメージに共感するコアなファンがロイヤルユーザーと化し事業を支える。

日本国内の自動車市場は、人口減の社会環境の下にある。日系メーカーが事業を伸長させていくためには、海外での販売拡大が必須である。その中で、粗利の高いプレミアムブランドに触手を伸ばすことは事業拡大の手法として当然である。だが、日本企業のブランディングに対する考え方が邪魔をする。プロダクトありきで、ブランド名は単なる〈記号〉でしかなく、後付けが可能な薄っぺらい存在であると、多くの日本の企業人は考えている。〈モノの価値〉を高めることに腐心しても、社会的価値や明確なポジションを持つ〈ブランド〉という、無形の〈魅力〉を打ち出し、投資し、育成していくことの大事さに理解が及ばない。

この対比は、生活史における〈モノの価値〉の捉え方の違いであり、近代社会におけるモノに対する生活者意識の〈成熟度〉の違いである。このことが、企業の事業運営に関して大きな違いを産んでいるのではないかと推察される。日本は、明治維新以降の近代産業勃興に拠るモノの価値観の醸成が、欧州に較べてまだ成熟の途上であることを示している。

さて、その中でマツダに、日本発の〈プレミアムブランド〉としての生き残りの優位を見出し、ビジョンに基づくプロダクトに一目置いた著者であるが、彼は、今後もマツダブランドのクルマに乗り続けるであろうか。マツダがますますその鋭敏な切り口を研ぎ澄ましていけるのか。著者のプレミアムブランドとしての期待に添い続けられるのか。その点は楽しみである。
この記事の中でご紹介した本
マツダがBMWを超える日 クールジャパンからプレミアムジャパン・ブランド戦略へ/講談社
マツダがBMWを超える日 クールジャパンからプレミアムジャパン・ブランド戦略へ
著 者:山崎 明
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「マツダがBMWを超える日 クールジャパンからプレミアムジャパン・ブランド戦略へ」出版社のホームページはこちら
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