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”Letter to my son"
更新日:2018年8月21日 / 新聞掲載日:2018年8月17日(第3252号)

Letter to my son(4)

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(c)Eiki Mori Courtesy KEN NAKAHASHI
真っ白な橋のゆるやかな曲線の真ん中に寄りかかっている彼の姿が見えた。少し濡れた真っ黒の艶やかな髪が太陽に照らされて輝き、光の粒子のように降り注ぐ花びらの中で、薄い青色のストライプのシャツが風に静かに揺れている。約束の時間に少し遅れていたが思わず立ち止まった。

私のロフトのひと部屋に最近住み始めた留学生と、前晩、遅くまでキッチンで話してしまい、朝方、留学生が出かけるドアの音で(静かに閉めてくれたが、うちの鍵はガチャンと大げさに閉まる)目覚めたついでに用を足し、白夜のようにやわらかく発光するシーツにすべり込み、ふたたび眠りに入った。

Hanamiに行きませんか? と、正午ごろ、青年からの電話で目覚めた。セントラルパークのボートハウス横のボウ・ブリッジで待ち合わせすることになった。私はその春、というより人生において、Hanamiに誘われたのは初めてだったし、何より彼から誘われたのが嬉しかった。今でも時々、電話脇の鏡にはその時の私の満面の笑みの残像が浮き上がり、ひらりと舞い揺れることがある。

私がもしあの留学生だったら、遠くの橋上で私を待っている青年のあの後ろ姿を迷いなく撮っただろうか。例えカメラを構えようとしても腕も手も動かなかったかもしれない。青年が存在しているからこそ、世界にピントが生まれ、すべての色と音が立ち上がり溢れ出る。まるで初恋のように、そのあまりにも鮮やかな光景を目に焼きつけながら、痛いほどの眩しさを全身に浴びている。髪に、まつげの先に、頬に、肩に舞い落ちる桜と遠くに見える老詩人。私は彼に舞い降りて、彼の感覚と眼差しをひとり勝手に夢想する。
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