本屋な日々 青春篇 書評|石橋 毅史(トランスビュー)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年8月18日 / 新聞掲載日:2018年8月17日(第3252号)

書かれるほどに「広く」「低く」 
本の外に向かって言葉が墜落していきそうな気配

本屋な日々 青春篇
著 者:石橋 毅史
出版社:トランスビュー
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どれくらい前からだろう。「本屋本」と呼ばれる一群の書籍が、書店の棚のそれなりのスペースを占めるようになった。一つのジャンルがなんらかの理由で危機に陥った場合、そのノウハウや豊かさを再発見したり、新しい動きを積極的に紹介してみせたりすることはめずらしくない。つまり、ピンチだからこそ、その領域の自己言及性が高まる、というわけだ。

新刊書店を開くことがとても困難なこの時代に、あの人は果敢にもオープンに打って出た。だからこそニュースになり、雑誌で、WEBで、本で取材される。古書店なのに新刊書も扱うらしく、そのラインナップがまたなんだかくすぐったい。そうした理由で私のようなライターが興味を持ち、客になり、話を聞きに出かけて行く。

本書の著者は、フリーランスになる前は、出版業界の専門紙「新文化」で記者と編集長を務めている。業界ど真ん中の人である。だから、出版社のこと、本の流通のこと、書店の現状など、誰よりも詳しいはずだ。詳しい人は少なからず、「狭く」「高く」なる傾向にあるように思える。出版界にいる人ならわかりそうなことは口にせず、独自の関心事を追求して、余人が近づけないような高みに行ってしまうのである。そこで語られる知見は貴重だが、単なる知識として消化されないまま、置き去りにされてしまうことも多いのではないか。

この本が独特だと思えるのは、書かれるほどに「広く」「低く」なっていくことである。著者は全国を飛び回り、多くの書店人、出版人と言葉を交わす。それらは取材の域を超え、といって友情に甘えることなく、だいたいがアルコールがらみとなり、深夜から早朝に及ぶ。毎回、アウェーに身を置き、経験を積み重ねるどころか常に自分が考えてきたこと、前提にしてきたことを突き崩し、瓦礫の山を築き、時には更地のように振り出しに戻ってしまう。頼りない茫漠とした広さと、誰の上にも絶対に立たない低さこそが、本書の真骨頂なのだ。

収録された一篇ずつがなかなかに長く、よくあるように雑誌連載にちょっと加筆してまとめてみました、という体裁だと、こういう本はできない。原稿の発表の仕方、媒体との付き合い方について、著者が従来とは違うカタチを模索し、そこに本書の版元であるトランスビューが打てば響く間合いで反応し、1冊として世に出ることになった。そのあたりの経緯が「あとがき」に書いてある。

本書を手にして、幅広のサイズをよくよく実感してほしい。幅広の紙幅のギリギリまで文字が印刷されている。左右の余白が極端に少ないのだ。本の外に向かって言葉が墜落していきそうな気配。

そして「本屋な」日々と来た。「の」でなく「な」だ。「の」なら所属だが、「な」はもっと曖昧だ。曖昧、つまり限定がない。広い。

おまけに「青春篇」なのだという。著者は40代も後半なのに、だ。今後いったい何篇がやってくるのか。いつまで続くのか。読者の前に現れるのはきっと荒野だと思う。
この記事の中でご紹介した本
本屋な日々 青春篇/トランスビュー
本屋な日々 青春篇
著 者:石橋 毅史
出版社:トランスビュー
以下のオンライン書店でご購入できます
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