イメージの人類学 書評|箭内 匡(せりか書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月18日 / 新聞掲載日:2018年8月17日(第3252号)

映像を通じて人類学を再構築 
「イメージ」の一語ははるかに厖大で多様な宇宙に開かれる

イメージの人類学
著 者:箭内 匡
出版社:せりか書房
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「イメージ」とは心象または想像のことか、それとも映像のことか。じつは難しい問いが横たわっている。心象、想像、映像はたがいに無関係ではない。単に「像」というときは、それらの意味をすべて含んでいるようだ。すっかり日本語に定着した「イメージ」の意味はじつに茫洋としている。ほんとうは定義しがたいものを意味しているのではないか。はじめに文字の情報にだけ依拠するのではなく、「民族誌映画作品やドキュメンタリー映画作品などをそれ自体が含む映像的思考に沿う形で考察し、映像と言葉の境界を取り払った人類学的思考の構築を目指した」と著者は書き、とりわけ映像を通じて人類学を再構築するこころみを提案している。しかし「イメージ」の一語ははるかに厖大で多様な宇宙に開かれることになる。その方向は次のように説明してある。「『全体』をアプリオリに想定するのではなく、隣接する諸要素が関連しあって局所的な広がりを持ったり、何らかの要因によって一定のパターンで繰り返されたり、また意外な連結関係によって一見無関係な場所にあるものが相互に支えあったりする、といった過程を見出し、そこでの広がり・繰り返し・連結などのメカニズム、強度、意味といったものを探求すること」。二十世紀の思想や芸術の潜在的な動向に照らしても、的をえた方法論的マニフェストと感じる。

こうして出発した探求は、まずイメージの構造的な定義を試みているが、それは知覚にとって映像として現れる原イメージ(第一のイメージ平面)から脱して(脱イメージ化)、いわば心象にほかならない第二のイメージ平面へと飛躍(再イメージ化)する移動の過程にほかならず、しかもこの第二のイメージは、眼前に現れる知覚対象へともう一度「照り返す」ことによって、知覚される現実にたえず還流する、と箭内は説明している。イメージは固定された対象ではなく、あくまで動的で「動詞的」な過程だという。このような〈過程〉としてのイメージは、記号や象徴として考察されてきた対象とはかなり異なる多様な次元に広がっている。構造主義的方法による言語や記号の考察が、広い関心の的となった時代の認識に対して、イメージにむかう人類学は全く異なる振幅をもつことになる。言語とは、音声―イメージと意味―イメージの結合にほかならないが、イメージそのものの〈過程〉を問題にすることは、すなわち言語とその認識自体を脱構築するような探求につながり、じつは人文学の姿勢そのものを根底から問うような転換につながるのだ。

このあとの箭内の厖大な研究は、もはや古典的な〈未開〉の世界の人類学ではなく、最後の章「自然と身体の現在へ」の事例が端的に示しているようにグローバル化に浸食された現代世界(特にペルー)の「民族誌」にむかい、地球規模の政治学、経済学、生態学と地続きの同時代的人類学の方向をはっきり示している。もちろんこの移動は、いきなり行われるのではなく、イヌイトにおける「別種の時空間の経験」に触れ、ラボブのブラック・イングリッシュの研究における言語学批判をとりあげ、ヴィゴツキーの哲学における「内言」にイメージ平面を発見し、フィリップ・デスコラを参照しながらアニミズム、アナロジスムを原理とする社会の事例を「イメージ化の過程」として検討するというように、多岐にわたる理論的考察とフィールドワークの成果を通じて「イメージ人類学」の問題領域をねりあげている。この探求の経糸になっているのは、「直接的な身体的イメージ経験」と呼ばれ、「社会身体」を形成するような「イメージ化」であり、箭内はタルドの社会学やヴィゴツキーの見解を、しばしば映像による民族誌と結び合わせながら、人類学的探求の焦点の大移動を、その必然性と必要性を提案しているのだ。後半の近現代の「民族誌」的考察は、昭和天皇の「崩御」さえ含む多様な事例をとりあげ加速的に視野を広げていくので、読むほうは混乱せざるをえないが、著者のもくろみは、あえてこの混乱のイメージを提出し、人類学の枠組みを、もはやあと戻りが不可能なほどに開放することでもあったにちがいない。
この記事の中でご紹介した本
イメージの人類学/せりか書房
イメージの人類学
著 者:箭内 匡
出版社:せりか書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「イメージの人類学」出版社のホームページはこちら
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