チェ・ゲバラの影の下で 孫・カネックのキューバ革命論 書評|カネック・サンチェス・ゲバラ(現代企画室)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年8月18日 / 新聞掲載日:2018年8月17日(第3252号)

祖父チェ・ゲバラの孫である葛藤 
愛憎半ばするキューバを斬る苦悩

チェ・ゲバラの影の下で 孫・カネックのキューバ革命論
著 者:カネック・サンチェス・ゲバラ
出版社:現代企画室
このエントリーをはてなブックマークに追加
「俺にとって政治はニュースで伝えられる不幸な出来事の一つでしかなく、俺の人生を何一つ変えやしない。人を煽るような、楽しくは読めるが真面目には受け止めてはならない安っぽい小説をあたかも読んでいるかのような感覚で新聞を読む」。『シエテアニョス 死に損ないたち』に出てくる吐き捨てるようなこの件は、政治と新聞(ニュース)への嫌悪感と絶望を表している。共産党一党支配下のキューバ体制と、その言動を伝える官報のような国営新聞・通信社の報道を長年、取材・分析してきた書評子は胸が痛む。キューバ市民にとって政府と新聞は日常社会そのものだからだ。

あれほど世界中に希望を醸した1959年元日の民族主義革命は対米対決、対ソ接近、共産党との合流を経て変質。21世紀に生き延びたものの、全体主義を嫌い自我を思うままに発揮したい「自由人」には窮屈な社会が頑迷なまでに存続している。キューバ人に鬱積する不満を描きつつ体制の欺瞞を暴く著者カネック・サンチェス・ゲバラ(1974~2015)は、革命社会の基盤をカストロ兄弟と共に建設したエルネスト・チェ・ゲバラ(1928~67)の実の孫であり、キューバに身を置けば特権者扱いを受ける。祖父らがつくった社会を特権を享受しながら批判的に生きるという大なる矛盾に苛まれた著者はメキシコ南部のオアハカ市に移り、「チェの孫」という強迫観念と闘い、かつ共存しながら、離脱したキューバ体制をアウトサイダーとして書き続けた。「チェの良き孫であろうとするのは難しい」、「生国キューバを愛し憎んだ。憎むには勇気が要った」と、しばしば口にしていた。

チェ・ゲバラはラ米大陸放浪中の1953年グアテマラ市で、左翼知識人にして活動家のペルー人女性イルダ・ガデア(1921~74)と出会い、55年8月メキシコで結婚。翌年、娘イルディータ・ゲバラ=ガデア(1956~95)が生まれた。ゲバラは結婚直前の7月19日メキシコ市で、亡命者として到着し間もなかったフィデル・カストロ(1926~2016)と初めて会い、キューバ革命への参加が決まる。革命勝利後、イルダ母娘はハバナに移住、イルディータは後に、キューバに亡命していたメキシコ人左翼活動家アルベルト・サンチェスと結婚、カネックが生まれることになる。最もリベラルで激動に満ちた時代とされる20世紀第3・4半期(1951~75)にラ米で花咲いた邂逅の連鎖と革命が生んだ重厚な血統である。

幼い日のカネックはイタリア、キューバ、スペイン、メキシコを転々として暮らした。86年ハバナに戻り、多感な思春期から青年期にかけて10年を過ごす。特異すぎる出自と幼少年期の流浪の体験によって培われた鋭い感性と深い思考力を備えたカネックは、年月を経ながら依然、試行錯誤しているような生気のない社会主義体制に直面、苦悩する。本書第1部は、その時代を描いた『33レヴォルーションズ』、第2部は前記『シエテアニョス』など掌編(コント)5作品、および太田昌国執筆の解説で構成されている。カネックの発言・思想、背景の状況などを細かく綴るこの解説は、本書とキューバ革命の変遷の理解に役立つ優れた論考だ。

そこに紹介されているカネックの発言に、「僕にとり左翼とは右翼に対峙することを意味しない。権力に対峙するのだ」というのがある。右翼・超保守勢力が左翼を攻撃するのは、自分たちが帰属感を持つ権力に左翼が歯向かっているからということになる。キューバでは革命後、右翼は掃討されるか米国に逃げるかし「左翼だらけ」になった。カネックは、そこに生まれた社会階級の上位者が「抑圧機構と、人民から遊離した官僚機構をつくった」と指摘する。キューバ政府と共産党は今、そんな権力構造を和らげ、市場経済が地味ながら機能し世代交代が急速に進む社会に適合させるべく憲法を大幅に改定する作業を進めている。カネックは短命の家系に背かず2015年初め40歳で早世した。もっと長生きし、「世代わり」期のキューバやメキシコに洞察の目を向け続けてほしかった。(棚橋加奈江訳)
この記事の中でご紹介した本
チェ・ゲバラの影の下で 孫・カネックのキューバ革命論/現代企画室
チェ・ゲバラの影の下で 孫・カネックのキューバ革命論
著 者:カネック・サンチェス・ゲバラ
出版社:現代企画室
以下のオンライン書店でご購入できます
「チェ・ゲバラの影の下で 孫・カネックのキューバ革命論」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
伊高 浩昭 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
学問・人文 > 伝記関連記事
伝記の関連記事をもっと見る >