対談=稲葉振一郎×金子良事  「新自由主義」議論の先を見据えて  『「新自由主義」の妖怪 資本主義史論の試み』(亜紀書房)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月24日 / 新聞掲載日:2018年8月24日(第3253号)

対談=稲葉振一郎×金子良事
「新自由主義」議論の先を見据えて
『「新自由主義」の妖怪 資本主義史論の試み』(亜紀書房)刊行を機に

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第2回
今日的な問題意識に直結する貨幣・金融論の問い直し

金子 良事氏
金子 
 第二章の論点がまるまるケインズ経済学をどう理解するかですよね。

ケインズは福祉国家の完全雇用政策として論じられてきましたが、それは完全雇用と社会保険をベースにしたベヴァリッジ報告の影響が大きい。稲葉さんはむしろケインズが書いた『貨幣改革論』で論じられた貨幣・金融論の側面から問い直している。
稲葉 
 貨幣・金融論の問い直しは、今日的な問題意識に直結しますからね。
金子 
 同時代的問題関心から歴史を解釈し直すことは重要ですよね。
稲葉 
 貨幣あるいは金融までを含めることで、初めて経済の全体の枠組みを掴むことができるようになりますが、従来の議論ではその点が欠けていたように思います。

もちろんマルクス経済学の中でも金融のことを論じようとする潮流はあったのですが、結局、金融セクターは実物セクターを支えるための役目のみにとどまり、経済の中心は産業資本、つまりモノづくりであるという根幹の考えから脱しきれなかった。マルクス経済学にとって貨幣や金融セクターはあくまで浮草、あるいは幻影であり続けたのです。
金子 
 産業革命が社会や経済を変えていっている同時代の分析だから、マルクスが製造業に注目するのは当然ですが。
稲葉 
 マルクス経済学の対抗軸だった産業社会論も結局のところ経済の中心を実体、モノづくりだと認識して、金融には辿り着きませんでした。

ではこの両者の経済観の違いはどこにあるのかというと、情報化やサービスに対する評価なんです。産業社会論者はマルクス主義者に比べ、情報・サービスセクターには肯定的でした。ただ、産業社会論にとっての情報やサービスはモノづくりの延長線上にあると考えていた節がある。モノを作るための情報、あるいはそれ自体で消費されるものとしての情報、という感じ。
金子 
 たしかに一九六〇年代は鉄鋼などの製造業や地銀など既存の産業がリードしてコンピュータが発展したので、そこに引っ張られたのでしょう。
稲葉 
 産業社会論の議論では、人間の生産と消費はゆくゆくはモノから情報・サービス中心に移っていくけれども、情報やサービスは私有財産制度・市場経済の枠組みにはめることができないため、情報・サービスセクターの広まりは、社会主義か資本主義かといった選択を無意味なものとし、無償経済、あるいはギフト・エコノミーのような社会が出来上がる、というイメージを描いている。そしてその社会の中心を担うのは科学者やアーティストのような私有財産や市場を気にしないような人たちだという。

私が思うに、産業社会論が描く未来の社会像って、最初のテレビドラマ版の『スタートレック(宇宙大作戦)』のような旧世代のSF的世界観じゃないでしょうかね。今となって思えば『ブレードランナー』の世界観の方がまだ説得力がありますが(笑)。そう考えるとだいぶ誤ったイメージを抱いていたなと。

そうは申しつつも二〇世紀末のインターネットの普及によって、情報・サービスの消費に拍車がかかり、ギフト・エコノミー的な向きに進もうとする向きはありました。しかし当事者であるIT産業が情報・知識のコモンズ化より知的財産制度による囲い込みを重要視して、今もなお「所有は重要だ(Property matters.)」の世の中が続いていますね。情報やサービスもあくまで市場を介して取引される財産、所有物だったのです。
金子 
 産業社会論が金融の話をしなかったという問題は、同時代の経営学も似ていました。例えば日本的経営論の三種の神器と呼ばれ重宝された「年功賃金」「終身雇用」「企業別組合」って、実は全て労使マターなんですよね。ここでもお金の問題が全く出てこない。

それに八〇年代の終わりに大ベストセラーとなり経営学の教科書の典型を作った『ゼミナール 経営学入門』(日本経済新聞社)の著者の一人である伊丹敬之さんは会計出身にも関わらず、この本の中では会計の議論がすっぽり抜け落ちているんですよ。むしろ企業経営における組織論や戦略論の方に軸足を置いている。
稲葉 
 経営学から会計の部分が抜けているのってアメリカも同じで、中心はやはり組織論や戦略論なんだよね。日本に限らずお金のことを語りたがらない不思議な現象だと思いますよ。
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この記事の中でご紹介した本
「新自由主義」の妖怪 資本主義史論の試み/亜紀書房
「新自由主義」の妖怪 資本主義史論の試み
著 者:稲葉 振一郎
出版社:亜紀書房
以下のオンライン書店でご購入できます
経済学という教養/筑摩書房
経済学という教養
著 者:稲葉 振一郎
出版社:筑摩書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「経済学という教養」出版社のホームページはこちら
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