対談=稲葉振一郎×金子良事  「新自由主義」議論の先を見据えて  『「新自由主義」の妖怪 資本主義史論の試み』(亜紀書房)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月24日 / 新聞掲載日:2018年8月24日(第3253号)

対談=稲葉振一郎×金子良事
「新自由主義」議論の先を見据えて
『「新自由主義」の妖怪 資本主義史論の試み』(亜紀書房)刊行を機に

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第4回
今、村上泰亮を論じる意義

稲葉 
 今日に至ってマルクス経済学は産業社会論という従来の好敵手を失ったことにより、論敵を新自由主義なるものにシフトしたわけですが、新自由主義自体に産業社会論ほど広く社会を捉えようとするビジョンが欠けているため、どうも批判が上滑りになっている気がしますね。
金子 
 日本の保守を議論する上で産業社会論は戦後の日本社会を広範なレンジで捉えた社会科学だったので、マルクス主義との論戦に耐えうることができた。その中核にいたのが大平正芳のブレーンを務めた村上泰亮さんでしたね。村上は保守的な立場からマルクス主義と論陣を張る一方、晩年には新自由主義とも一戦交える構えを見せた。今回の本をお書きになる上で稲葉さんが注目されたのはうなずけます。
稲葉 
 村上のビジョンの大きさがあったからこそ、存在感は一層際立ちましたね。同世代には公文俊平さんや山崎正和さんら村上と比肩するビジョンの持ち主が名を連ね、世代的な重厚さもありました。その中で村上は「新中間大衆」、山崎は「柔らかい個人主義」といった産業社会論の中軸を担うビジョンで保守論壇を牽引しましたが、残念なことに彼ら以降はその役割を担える論客が出てきませんでした。
金子 
 産業社会論者の間で大きなビジョンを持っていたのは、村上ら保守陣営だけでなく革新側にもいて、代表的な人物は正村公宏さんですが、彼もまた村上とほぼ同年代なんですよね。革新側でも正村以降、彼と同程度の日本社会を議論できる人を輩出できていない。そういった点で村上ら三〇年代生まれの人たちが最後の世代ですね。

だからこそ、これまで日本の中でどのような議論が交わされてきたかを整理する上で村上泰亮は最良の道標といえるでしょう。
稲葉 
 七〇年代の福祉国家の危機に端を発する新自由主義的潮流が日本社会に与えた影響を観測するために、戦後日本の社会構造の洗い出しが必要でしたが、村上の「新中間大衆」はその点、有用な概念ですね。

五五年体制下の保守政党たる自民党統治が可能な限り広い支持基盤を得るための政策を打ち出す包括政党の役目を担ったことによって日本社会に中間層が拡大したと村上は考えます。
金子 
 包括政党自体は日本オリジナルではありませんが、日本の場合、雇用と教育を特に充実させたことに一日の長がありました。そしてこの構造って実は今もあまり変っていない。

それこそ中曽根内閣が新自由主義的な政策を推し進めたことによって大きな転換になったように思われていますが、今だって自民党は中間層を政策のメインに据えてますよ。
稲葉 
 むしろ票を確保するという目的がはっきりしている分、中間層向け政策マインドが大きく舵を切ることはありえませんね。
金子 
 産業社会論あるいは村上の中間層の議論は話が尽きないのですが、この本の論点でいうと、第二章で稲葉さんが注視したケインズの貨幣・金融論の側面だけでは逆にリンクしきれないのではないか、という懸念がありました。むしろ産業社会論を再検証するためには、ケインズ主義的な福祉国家政策にフォーカスを当て直す必要があるでしょう。
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この記事の中でご紹介した本
「新自由主義」の妖怪 資本主義史論の試み/亜紀書房
「新自由主義」の妖怪 資本主義史論の試み
著 者:稲葉 振一郎
出版社:亜紀書房
以下のオンライン書店でご購入できます
経済学という教養/筑摩書房
経済学という教養
著 者:稲葉 振一郎
出版社:筑摩書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「経済学という教養」出版社のホームページはこちら
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