スペイン内戦(一九三六~三九)と現在 書評|川成 洋(ぱる出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年8月25日 / 新聞掲載日:2018年8月24日(第3253号)

スペイン内戦(一九三六~三九)と現在 書評
その意味や重要性を明らかに 
複雑な内戦を冷静かつ複眼的に見る

スペイン内戦(一九三六~三九)と現在
著 者:川成 洋、渡辺 雅哉、久保 隆
出版社:ぱる出版
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人類の歩みの中で、戦いほど絶え間なく繰り返されているものはないだろう。歴史を暗く彩ってきているのは、侵略、紛争、殺戮と言い換えることのできる戦いである。我々にはそれほどまでに好戦的な血が流れているのかと、暗澹たる気分にもなろうというものである。人が時として、自らと自らの所属する集団の「版図拡大」や反対勢力殲滅のために、自国内ですら戦い――内戦――に身を投じることを想起すれば、自らがその一人だと知りつつ、人間というものの度し難さに呆れざるを得ない。ただ、このようなことを声高に叫んだならば、偽善的で子供じみた発言に聞こえることもあるのではなかろうか。内戦の原因や構造がそれほど単純なものでないことは誰の眼にも明らかだからある。実に複雑な人間の住む世界と営みは、身近でありながら謎に満ちている。

人類の歴史における数多の戦いの中でも、スペイン内戦がひときわ有名であり、現在でもしばしば人口に膾炙するのは、他の内戦と比べて規模が極めて大きく、様々な要素が複雑に絡み合っているからであろう。つまり、スペイン内戦が民族、宗教、経済、権力、イデオロギーといった諸事を巡って、複数の民族と国々を巻きこんだ壮大な人間ドラマとなっているからであり、そのスケール、内包された多様性、それらを生み出す人間というものの営みが、時には戦慄を伴って我々の好奇心をくすぐるからである。
『スペイン内戦(一九三六~三九)と現在』は、この内戦の背景、内容、世界史におけるその意味や重要性を明らかにしてくれている。各章――本書では章ではなくローマ数字で示されている――のテーマを見ておこう。

本書はまず、内戦に至るまでの過程から始まっている。サルバドール・ダリは内戦勃発の約半年前に内乱の予感を描いたが、ダリの抱いた不安と衝撃の一端を、この章により読者は追体験できるかもしれない。

Ⅱは「スペイン内戦の諸相」と題されている。これは実に詳細なもので、バスク、第二共和制、独裁政権から難民収容所、果ては内戦時の食糧事情にまで言及されており、内戦の記憶が現在にいかに生きているのかが語られている。

Ⅲ「スペイン内戦と世界」は国際旅団、芸術家たちにとってのスペイン内戦、日本にとってのスペイン内戦の章と言えるだろう。戦いが作家・芸術家たちにとってインスピレーションとなることは、W・B・イェイツやチママンダ・ンゴズィ・アディーチェなどの例を持ち出すまでもないだろう。スペイン内戦に関して言えば、アーネスト・ヘミングウェイやジョージ・オーウェルの名が挙げられることが多いように思われるが、本書ではさらに多くの作家・思想家が扱われており、写真家ロバート・キャパ、日本人義勇兵ジャック白井などの項目も設けられている。

Ⅳ「スペイン人たちのスペイン内戦」のテーマは前章と重なる部分も多いが、スペインの芸術家にとっての内戦を描いている。

Vは「アナキズムとスペイン内戦」。ここでいうアナキストは、テロリストでもなければ、虚無主義者でもなく、単なるイデオロギーがかった者たちを指すのでもない。スペイン独自のアナキズムを丁寧に論じている点で、この章は本書の白眉をなしていると言えるのではなかろうか。

多様な要素を有す内戦ゆえ、当然のことながら語られるべきことも多く、本書は八〇〇ページにも達しようとする大著である。目を引くのは執筆者の多彩さであろう。日本、スペイン、フランス、カナダ、ドイツ、アメリカを拠点に活躍する研究者、ジャーナリスト、作家、活動家たちが筆を振るい、多角的に内戦を論じている。この種の書は、ともすれば、執筆者のセンチメンタリズムの発露になってしまうのだが、本書は複雑な内戦を冷静かつ複眼的に見ており、その点は特に賞賛に値する。学術性の高い本の出版事情が必ずしも良いとは言えない時代に、この優れた書を上梓した筆者たち、編者たち、出版社に敬意を表したい。
この記事の中でご紹介した本
スペイン内戦(一九三六~三九)と現在/ぱる出版
スペイン内戦(一九三六~三九)と現在
著 者:川成 洋、渡辺 雅哉、久保 隆
出版社:ぱる出版
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「スペイン内戦(一九三六~三九)と現在」出版社のホームページはこちら
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