依存的な理性的動物  ヒトにはなぜ徳が必要か 書評|アラスデア・マッキンタイア(法政大学出版局)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年8月25日 / 新聞掲載日:2018年8月24日(第3253号)

ヒトという動物の倫理学 
自然に即した現実的な理想を描く

依存的な理性的動物  ヒトにはなぜ徳が必要か
著 者:アラスデア・マッキンタイア
出版社:法政大学出版局
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奴隷制や女性差別を、自然的関係として正当化したことで、アリストテレスは悪名高い。それにもかかわらず本書は、アリストテレスが今生きていたら当然依拠するに違いないもの、つまり動物行動学や精神分析、人類学、社会心理学の最新の知見を援用しつつ、アリストテレス主義の現代性を主張する。

議論の出発点は、ヒトという動物種の確認である。現代の分析哲学と大陸哲学の両者とも、人間と他の動物とのあいだに明確な境界を引く点で間違っている。著者はイルカ等の社会的活動をする動物の研究を引きながら、自立した推論といえる活動がこうした動物に認められるとし、彼らは(非言語的動物ではなく)前言語的な動物なのだとする。他の動物と理性=言語的動物としての人間の連続性の指摘から彼が強調するのは、人間本性における動物性の要素である。

ヒトという動物は、他に依存する生物として生まれる。それはやがて、生長を経て自立した実践的推論をする存在になるが、その性質の開花のためには、他者の助けが不可欠である。そしてヒトは老いてゆき、再びより依存的な生物になり、死に至る。これに加えてヒトには、病気や障碍に襲われ、一時的もしくは半永久的に、他者に依存せざるをえない存在となる可能性があるという「傷つきやすさ」が本性的にある。人間の善き生を論じる倫理学は、かかる動物性を適切に考慮に入れるべきである。ただしそれは、〈正常な〉人間の関係を合理的に確立し、依存状態にある人々の扱いをその応用問題として考えるものであってはならない。なぜか。

奴隷制や女性差別を批判するとき、しばしば〈平等な個人〉という規範モデルが使用される。しかしこのやり方は、〈依存する存在〉を逸脱と表象してしまい、そうした人への善を慈愛としてしまう。そこには、善を受ける者に感謝だけでなく劣等感を、そしてそれゆえ、与える者にかかる施しを受けることを恥と思わせてしまう危険がある。トマス・アクィナスの徳論によって修正されたアリストテレス主義は、この陥穽を避けられるというのが本書の教えである。つまり、人間がそもそも依存的な動物であるという現実を出発点とし、人間がその本性を開花するのに不可欠な社会実践と、その中で発揮されるべき徳(つまり善き能力と性質)を明らかにするなら、依存―非依存の関係は、それ自体が自然的な関係であり、その実現は誰かの善のコストによってではなく、各人の善と一体となった社会全体の善である共通善によって可能になるとされるのである。共通善に照らされるなら、依存する状態を承認することが、一つの徳として理解される。なぜなら、依存の状態にある人々のニーズを適えんとする営みは、自立した実践的推論というもう一つの徳を学ぶ重要な機会だからである。助け合うという善は、様々に異なった存在のあいだで、全体における部分としての自らのその時々の位置や役割を理解し、それを実現していくことに存する。それは合理的な利益の交換や、一方的な愛の施しではない。

共通善を学ぶ場として著者は国民国家に期待しない。職場、学校、教会、スポーツクラブ、労働組合の下部組織といった地域コミュニティこそが、「与えることと受けとることのネットワーク」として我々がその本性を開花できる場所だとされる。こうした議論には、単なる理想論という批判がなされるだろう。だが彼は、フーコーのような人々が、社会に働く権力の仕組みを暴露していることを充分に知っている。しかしこうした社会モデルを、近代科学的知に汚染されてないならば、我々は正常なというよりは逸脱した関係性として理解するであろう。そうであるなら、彼が描く理想は、やはり自然に即した現実的な理想だといえるのである。そして彼は、「ユートピア的な諸規範に従って生きようとすることは、けっしてユートピア的なことではない」と語るほど、現実主義的な思想家であると言えるのだ。(高島和哉訳)
この記事の中でご紹介した本
依存的な理性的動物  ヒトにはなぜ徳が必要か/法政大学出版局
依存的な理性的動物  ヒトにはなぜ徳が必要か
著 者:アラスデア・マッキンタイア
出版社:法政大学出版局
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