NO―NO BOY 書評|川手 晴雄(KADOKAWA)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年8月25日 / 新聞掲載日:2018年8月24日(第3253号)

NO―NO BOY 書評
「不忠誠」と烙印押された日本人 
実父の足跡を追ったノンフィクション

NO―NO BOY
著 者:川手 晴雄
出版社:KADOKAWA
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NO―NO BOY(川手 晴雄)KADOKAWA
NO―NO BOY
川手 晴雄
KADOKAWA
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このノンフィクションの中心的題材は、第2次世界大戦中、アメリカ政府が約12万人の日系人(日本からの移民とその子孫)を西海岸地域から強制的に立ち退かせ、内陸部の収容施設に押し込めた事件である。

「自由の国」における史上最悪の人権侵害のひとつであるだけに文献は膨大にあるが、本書の特徴は、当事者が日本でうまれ育った著者自身ではなく、アメリカうまれの「父」だという点である。しかも、著者は長く、肉親の戦中の奇遇についてほとんど知らず、関心もなかった。1996年の死後、遺品の革鞄から日記・写真・文書が見つかり、「ツールレイク収容所」の存在、そして父が「不忠誠」な「ノーノーボーイ」であった事実をはじめて知ったのである。本書はそこからスタートした調査の成果で、著者の「自分探し」を含め、日系人の数奇な体験をわかりやすく伝える一般書に仕上がっている。

「ノーノーボーイ」とは、アメリカに忠誠を誓うことを拒否したため、とくに危険な「問題児」として扱われた日系人で、カリフォルニア州最北部の砂漠地帯に設置された「ツールレイク収容所」に集められた。日系人はそもそも、敵国を出自とするがゆえ全体として「潜在的に危険」とみなされ、立ち退き・収容を受けている。その上、一部の人々は「忠誠登録」というアンケート調査でアメリカ軍に入隊し戦うことを拒み、アメリカへの無条件の忠誠を否定し、かつ日本・天皇への服従を否定しなかったため(2つの質問に「ノー」と回答、もしくは無回答)、「不忠誠組」として別個に扱われたのである。なお、1957年に出版された本書と同名の小説は日本語訳もされ(ジョン・オカダ著、川井龍介訳『ノーノー・ボーイ』旬報社)、両国で広く読まれている。

著者は、まず基本的な歴史的背景を概説したのち、父・川手正夫がなぜ「ノーノー」となり、その結果いかなる事態に直面したのかを、遺品の日記や手紙などをもとに描いている。1913年にカリフォルニア州でうまれた父は日本人移民を両親にもつが、5歳のときに家族で帰国し、15歳でふたたび単身アメリカに戻った、二重国籍の「帰米二世」である。その後、苦学して最難関のカリフォルニア大学バークレー校に入り、開戦前年に卒業している。日米両国で一定期間を過ごし、かつ教育を受けている点が他の日系人と異なる。

父は「忠誠登録」に応じること自体を拒絶したが、それは疑われる理由がないのに忠誠心を問われることを「侮辱」と考えたからである。アメリカ政府の理不尽さへの反発もあり、むしろ日本に対して親近感を抱くようになる。その後、規則違反により起訴され、2カ月の禁錮刑を受け、戦中を通じて収容されつづけた。

波瀾万丈の人生は終戦後もつづく。アメリカ市民権を失い、1945年12月に日本に戻るが、荒廃した敗戦国での新生活が容易なわけがない。「ノーノー」の過去を理由に解雇されるなど、職を転々とした。1958年にはアメリカ市民権を回復するが、「なじめない」日本に留まり、アメリカ流の家庭を築き、人生を終えた。著者はこうして、父の、そして自分自身の重要な部分を再発見するのである。

最後に、日系人史の研究者としてもっとも興味を引いた点は、「真相はよくわからない」「鵜呑みにはできない」、さらには「信じがたい話」「あるいは嘘」などと疑義を呈しつつ、著者が父の生前の言葉を多く紹介していることだ。人間は、つねに事実を正確に記憶し、語るわけではない。むしろ、人生を「そうあってほしい」「他者にそう理解してほしい」ものとして内面化したりするものだ。そして、そんな一当事者の「不正確な認識」自体も、歴史の所産なのである。史実を確定しさえすれば過去を理解できる、わけではないのだ。
この記事の中でご紹介した本
NO―NO BOY/KADOKAWA
NO―NO BOY
著 者:川手 晴雄
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
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