村田沙耶香インタビュー(聞き手:稲垣諭) 「地球星人」の豊かな可能性描く 最新長編『地球星人』(新潮社)を語る|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月31日 / 新聞掲載日:2018年8月31日(第3254号)

村田沙耶香インタビュー(聞き手:稲垣諭)
「地球星人」の豊かな可能性描く
最新長編『地球星人』(新潮社)を語る

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地球星人(村田 沙耶香)新潮社
地球星人
村田 沙耶香
新潮社
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村田沙耶香氏の最新長編『地球星人』(新潮社)が刊行された。第一五五回芥川賞を受賞し、話題となった「コンビニ人間」から二年、待望の受賞後長編第一作となる。刊行を機に、東洋大学文学部教授で、現象学・リハビリテーションの科学哲学を専門とする稲垣諭氏とお話いただいた。

初対面ながら、本書を中心に、性愛、昆虫、吐き気、自殺……と多岐に亘って深く語られ、村田ワールドを豊かに読み解くヒントが散りばめられる対話となった。先に読んでも、後に読んでも、『地球星人』本編の面白さが増すことを請け合います。(編集部)
第1回
☆始まりは「長野」。

村田 沙耶香氏
稲垣 
 私が専門にしているリハビリテーションの哲学では、脳に障害を負って、体がうまく動かせなくなったり、あるいは物事の認識がうまくいかなくなってしまったような方々が、どうしたらもう一度新しく自分の世界を取り戻せるか、その手立てを考える研究をしています。村田さんの作品はいつも、文学作品としてはもちろん、物事の認識の仕方のヒントとしても、面白く読ませてもらっています。

今作のタイトルの『地球星人』は、初めに目にしたとき、「村田さん、ついに地球を超えたか!?」と思いました(笑)。ところが読み始めると、舞台は長野の秋級あきしなという地域で、お盆に親族が集まるという、むしろ懐かしい光景が広がっています。そのギャップが、本書の最初のインパクトでした。

この作品は、どのような経緯で生まれてきたのでしょうか。
村田 
 私はいつも、一作書き終えたら、間をおかずに次を書き始めるのですが、「コンビニ人間」が芥川賞を受賞して、思っていた以上にてんてこ舞の忙しさになって、そのとき書こうと構想していたものを、長く放置することになってしまったんです。ようやく書く時間ができたときには、いまの自分の気持ちとは離れてしまっていて、それを捨てざるを得ませんでした。では何を書こうか、というのが全く分からなくなり、冒頭部分だけたくさん書いてみたり、かなり右往左往しました。それで、四谷のビジネスホテルのロビーで編集者さんと話し合い、最終的に「長野」を舞台にしましょう、ということだけ決めて解散となりました。

そこから書いたのがこの『地球星人』なので、多くの人から「えっ、長野がキーワードでこれ?」と言われました(笑)。
稲垣 
 「長野」という一つのキーワードのみで、書き上げたのですか。
村田 
 私は構想を練って書くタイプではなく、今回のように長野とか、あるいはニュータウン、コンビニ、とだいたい一つぐらい決めて、それだけを頼りに、どこへ辿り着くか自分でも分からないまま、書き上げるんです。

少女時代を先に書き、それだけで物語を完結させることも考えたのですが、やはり大人時代も書きたくて。ただ書くうちに夫が非常に変な人になってしまったので、前半とテイストが違う後半になっていますが書き続けていいでしょうか、と編集者さんに途中稿を見せています。「このまま書き続けてください」と言っていただいて、ああ書いていいんだなと、気づけば長い物語になっていました。
稲垣 
 『殺人出産』や『消滅世界』で描かれていた世界観は、近未来だったりパラレルワールドだったり、少し僕らの世界から距離がありました。人間の性や生殖というテーマを、いま生きている日常とは異なる角度から描き出す点は、今作もこれまでの作品の流れをくむものですが、日本のど真ん中から物語がスタートしたことで、僕らの現在を基点に異質な価値観が広がっていくことに、これまで以上にハッとさせられるものがありました。
村田 
 はい、どんどん変な方向へ進んでいきました(笑)。
稲垣 
 村田さんの作品を読んで驚くのは、新鮮で奇態な世界観の根底に、現代の社会問題が精確にカクまえられていることです。

「新潮45」の八月号には、杉田水脈衆院議員の寄稿文「『LGBT』支援の度が過ぎる」が掲載され、LGBTのカップルは子どもを作らないから生産性がない。そのために税金を使う必要があるのか、という「生産性」発言が炎上しましたね。「地球星人」は、初出が「新潮」五月号なので、村田さんの方が先んじていて、直接には何の関係もないのですが、同じように結婚せず子どもを作らない人間が糾弾される社会を、一つのテーマとして取り上げているわけです。

これまでも、社会の中に沈潜する問題の芽のようなものが、村田さんを通じて描き出されてきたと思うのですが、社会に対する違和感や疑問は、どのように村田さんの中に、作品として醸成されていくのでしょうか。
村田 
 今作の主人公の奈月は、社会とは人間を生産する「工場」であり、自分の子宮は備品である。世界のために子を産まなければ、落ちこぼれは生きていけない、と思っています。
稲垣 
 それで「すり抜け・ドットコム」で仮想夫婦として何とか生き延びようとする。
村田 
 はい。でもそれでは、私自身に奈月と同じぐらいの危機感や、適齢期になったら結婚して子どもをつくるのが普通だと考える社会への嫌悪感があるかと言われると、そうでもないんですよね。作家として社会問題について訴えたいことがあるかといえば、それも違うんです。ただ、生殖や性というものには、とても興味を持っています。

動物はどんな種でも、とにかく次の世代に命を繋ごう、としますよね。中でも昆虫や魚は、多いものでは万単位、億単位で卵を産み、ほんの一握りしか生き残れない。その在り方には、絶対に遺伝子を未来に運ぶという、何か、大いなるものの「意志」を感じてしまいます。そうした生物たちと同じように、人間にも種を残そうとする本能があるのか。自分の中にもあるのだろうか? 私は結婚していないし、子どももいない。だから全くピンとこないけれど、他の人々は、実は個人的な恋愛のためではなく、生物として繁殖しなければ、という本能のもとに、子どもをつくっているのかもしれない。でもそうだとしたら、私が生殖をしなければ、と感じないのはなぜなんだろう。本能とは本当に自然の呼び声なんだろうか……。そんなことを、繰り返し考えているんです。

子どものころ、長男である兄は、村田の名を継ぐ人間だと言われ、結婚して子をつくるという意識を植え付けられていたと思うんです。一方で、女の子は結婚したら他所にもらわれていくんだから、と私の方はさほど重視されていませんでした。名を継ぐという感覚が不思議で、村田が滅んでも、田中や山田が大いに繁殖すれば、それでいいのではないか、と思ったりもしていて(笑)。

一方で、婚活サイトでパートナーを見つけた友人は、兄妹みたいに暮らしていて、セクシャルな関係性をお互いに求めていない。でも子どもは欲しいので、排卵日をアプリで調べてセックスをするけれど、突如そういうムードを出すのが、気恥ずかしいと。

それを聞いて、あまり表には出てこないですが、そういう感覚を持っている人は実はたくさんいるのではないか、という気がしたんです。社会問題というよりは、そういう周りの人々の感覚に、私は興味があるのかもしれませんね。
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この記事の中でご紹介した本
地球星人/新潮社
地球星人
著 者:村田 沙耶香
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
「地球星人」出版社のホームページはこちら
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