〈芥川賞について話をしよう〉 第14弾(小谷野敦・小澤英実)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年8月31日 / 新聞掲載日:2018年8月31日(第3254号)

〈芥川賞について話をしよう〉 第14弾(小谷野敦・小澤英実)

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第2回
言語化できないものの表象

小澤 
 確かに高橋さんの作品は、どれも血が通っていない感じがします。ただ「日曜日の人々」にだけは違う生々しい感情がこもっていて、私にはそこがよかったんですが。どの作品でも、作者自身がまさに歩の視点で世界を俯瞰して観察している。だから歩がしっぺ返しを食う「送り火」は、自身が描く作品自体への自省や批判的視線を内在しているとも読める。
小谷野 
 非常に人工的なんです。
小澤 
 その人工的なところが彼の新しさだと思います。これで芥川賞も獲れたので、高橋さんにはこのまま表層的な記号の戯れ的なところで踏ん張りつづけて、かつ「だから何?」と言わせないような作品でガツンと殴りにきてほしいです。
しき(町屋 良平)河出書房新社
しき
町屋 良平
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小谷野 
 やっぱり町屋の「しき」の方がよかった。タイトルはよくないけれど、僅差で「送り火」に敗れた感じがしますね。
小澤 
 「しき」は十六歳、「送り火」は中三の男子生徒が主人公で、反抗期についてそれぞれ似て非なることを言っているくだりがあったり、所々被っているのが面白かったですね。しかし「しき」では時間が主題ではあるんですが、未来からの語りがちょこちょこ入ってきて、そこは効いてないと思いました。実験性がマイルドな山下澄人みたいな感じを受けた。
小谷野 
 私はそうは感じなかったなぁ。山下よりはずっと好感度が高い。
小澤 
 「かれ」なんて人称操作も似てませんか。
小谷野 
 佐々木敦みたいなことを言いますね。
小澤 
 でもなぜ未来から語る必要があるのか。
小谷野 
 漱石の「行人」だってそうです。そういう語りは、ふっと入ってきちゃうものなんですよ。私は実作者だからわかりますが、それぐらいはいくらでもある。いちいち考えて書くものでもない。山下より町屋の方が断然いいと思う。人情話ですよね。野外生活をしている男の子の書き方が、リアリティに欠けていて、また複数の男女が出て来くるところも、ちょっとごちゃごちゃするけれど、そんなに読みづらくはない。
小澤 
 町屋さんは言語化できないものをどうやって表象できるかに強い関心を持っていて、今回はそれをダンスとか思春期の性を梃にして描いた。川上弘美さんは「行間にある何かをあらわすに関しては、ピカ一の小説」だと言っていますが、そのための仕掛けや工夫が張り巡らされている。一方で山田詠美さんが「アフォリズムめいた箇所が多過ぎる」というように、言葉で語り過ぎるところもある。小谷野さんは、「送り火」のラストを批判していましたけれども、「しき」の場合も、最後がちょっといい話過ぎやしませんか。
小谷野 
 それでいいんですよ。私は、高橋揆一郎の「伸予」が好きなぐらいだから、人情話好きなんです。
小澤 
 動画に対するコメントがいっぱいついて、「ぜんぜんうまくないし、泣くとこいっこもないのに、なんか泣いてしまう」とか、ちょっとできすぎじゃないかと。
小谷野 
 高橋と町屋の違いは、女の子が出てくるか出てこないかです。そこで評価がかなり違ってくる。「送り火」はすごくホモソーシャルな感じがするんですよ。
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この記事の中でご紹介した本
送り火/文藝春秋
送り火
著 者:高橋 弘希
出版社:文藝春秋
「送り火」は以下からご購入できます
しき/河出書房新社
しき
著 者:町屋 良平
出版社:河出書房新社
「しき」は以下からご購入できます
もう「はい」としか言えない/文藝春秋
もう「はい」としか言えない
著 者:松尾 スズキ
出版社:文藝春秋
「もう「はい」としか言えない」は以下からご購入できます
無限の玄/風下の朱/筑摩書房
無限の玄/風下の朱
著 者:古谷田 奈月
出版社:筑摩書房
「無限の玄/風下の朱」は以下からご購入できます
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