受賞
8月24日、東京都内で第159回芥川賞と直木賞の贈呈式が行われ、芥川賞の高橋弘希氏(「送り火」文學界5月号)と直木賞の島本理生氏(『ファーストラヴ』文藝春秋)に賞が贈られた。
選考委員代表の挨拶で芥川賞の小川洋子氏は「「送り火」は候補作の中でも圧倒的な存在感で、不穏な雰囲気がとても緻密に緩みなく描かれ、その緊張感が高まったところで混沌の中に読者を引きずり込むような暴力のシーンが訪れる。ではこの暴力の先に一体何があるのかと聞かれても答えようがない。その答えられないということが素晴らしいところで、読者を安全な場所へ決して案内しようとしない。その勇気があることが才能だ。高橋さんは、あらかじめ用意した言葉で世界を描写するのではなく、純粋な無言の目で世界を見て、無言の中に映ったものを言葉で描写することが出来る。高橋さんの小説を読んでいると、日本語はまだこんなに秘密を隠しているのだということを思わせてくれる」と評した。
直木賞の東野圭吾氏は「自分にとってこの作品の何が良かったかを考えてみると、ここには読者に対しての正義があるということだった。なんとか次のページをめくらせようとするいろいろな工夫が誠実に感じられた。エンタテインメントはある意味読者を安全なところに連れて行かなければならないが、同時に知らないところに連れて行かなければならないという使命を持っている。それをしっかりと書くとしてこの作品を描いたのではないかというところが随所に見られた」と語った。
受賞者挨拶で高橋氏は「このたび本賞を受賞させていただくことになり、大変光栄であり、また身の引き締まる思いであります。このような大きな賞をいただいて良いのかという思いもありますが、今後に期待していただけるものと理解しています。この受賞におごることなく、これからも誠心誠意作品に向き合っていきたいと思います」と用意した文章を簡潔に淡々と読み上げた。
島本氏は「作家になって一番良かったと思うのは、書き続けることの凄さに気付けて、そしてそれに日々触れられることだ。作家というのは、書き続ける努力をずっと続けていくから作家なんだということを、作家の方たちを目の当たりにして実感している。自分よりもずっとキャリアも人気もある方が、それでも新しいことに挑戦して書き続けている姿を見て背中を押されたことが、この18年間何度もあった。今回の受賞を機に、自分より若手の方にも書き続けることで見えてくる世界がもしかしたらあるのかもしれないと思ってもらえたらすごく嬉しい」と話した。
■〈芥川賞について話をしよう〉の記事
〈芥川賞について話をしよう〉 第14弾(小谷野敦・小澤英実)
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更新日:2018年8月31日
/ 新聞掲載日:2018年8月31日(第3254号)
第159回 芥川賞・直木賞 贈呈式開催

島本理生氏、高橋弘希氏
選考委員代表の挨拶で芥川賞の小川洋子氏は「「送り火」は候補作の中でも圧倒的な存在感で、不穏な雰囲気がとても緻密に緩みなく描かれ、その緊張感が高まったところで混沌の中に読者を引きずり込むような暴力のシーンが訪れる。ではこの暴力の先に一体何があるのかと聞かれても答えようがない。その答えられないということが素晴らしいところで、読者を安全な場所へ決して案内しようとしない。その勇気があることが才能だ。高橋さんは、あらかじめ用意した言葉で世界を描写するのではなく、純粋な無言の目で世界を見て、無言の中に映ったものを言葉で描写することが出来る。高橋さんの小説を読んでいると、日本語はまだこんなに秘密を隠しているのだということを思わせてくれる」と評した。
直木賞の東野圭吾氏は「自分にとってこの作品の何が良かったかを考えてみると、ここには読者に対しての正義があるということだった。なんとか次のページをめくらせようとするいろいろな工夫が誠実に感じられた。エンタテインメントはある意味読者を安全なところに連れて行かなければならないが、同時に知らないところに連れて行かなければならないという使命を持っている。それをしっかりと書くとしてこの作品を描いたのではないかというところが随所に見られた」と語った。
受賞者挨拶で高橋氏は「このたび本賞を受賞させていただくことになり、大変光栄であり、また身の引き締まる思いであります。このような大きな賞をいただいて良いのかという思いもありますが、今後に期待していただけるものと理解しています。この受賞におごることなく、これからも誠心誠意作品に向き合っていきたいと思います」と用意した文章を簡潔に淡々と読み上げた。
島本氏は「作家になって一番良かったと思うのは、書き続けることの凄さに気付けて、そしてそれに日々触れられることだ。作家というのは、書き続ける努力をずっと続けていくから作家なんだということを、作家の方たちを目の当たりにして実感している。自分よりもずっとキャリアも人気もある方が、それでも新しいことに挑戦して書き続けている姿を見て背中を押されたことが、この18年間何度もあった。今回の受賞を機に、自分より若手の方にも書き続けることで見えてくる世界がもしかしたらあるのかもしれないと思ってもらえたらすごく嬉しい」と話した。
■〈芥川賞について話をしよう〉の記事
〈芥川賞について話をしよう〉 第14弾(小谷野敦・小澤英実)
この記事の中でご紹介した本
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