【横尾 忠則】アトリエ空っぽ。頭の中も空っぽ。空っぽ作品に、期待|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
更新日:2018年9月4日 / 新聞掲載日:2018年8月31日(第3254号)

アトリエ空っぽ。頭の中も空っぽ。空っぽ作品に、期待

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2018.8.20
 小池一子さんが館長の十和田市現代美術館の個展でタマの絵を一部展示したが、100点完成時に展覧会を計画していると小池さんに漏らしたところ、スパイラルの小林館長を紹介されて会いに行く。当館はスケールの大きい特殊な空間なので、タマにはもっと小じんまりしたギャラリースペースがよく似合う。

昼は神戸屋でハンバーグ。いつもハンバーグをパンパンパンと音を立てながら作っているのが気になっていたので一度食べてみたいと思っていた。ハンバーグはホテルのルームサービスでとるくらいで、好物ではないが、神戸屋のハンバーグはレパートリーになりそう。

2018.8.21
 〈世阿弥が客の顔色を見ながら演じ分けるように、ぼくの作品にもいえることだと、誰かが、松竹梅の三種にぼくの作品を選別する〉作品の偏差値夢。

心配していたおでんがとうとうベッドカバーの上で放尿。直接布団の上ではなく、防水用シートにしたので最悪はまぬがれる。人間関係より人猫関係の方が不透明で推理に難航。

アディダスのために描いた絵がえらい気に入られ、おまけに描いた絵も2点共採用されることになる。他にマグカップにも展開を希望。依頼仕事はさっさと早いとこ済まして、いつも空っぽの状態でいたい。
アトリエにて磯﨑憲一郎さんと(撮影・徳永明美)

2018.8.22
 成城に2軒のインドカレー店がある。従業員はポカラからの出稼ぎ。聞いてみるとオーナーの社長がいて、何店舗も持っているそーだ。オーナーはインド人? 日本人? 今度聞いとこ。

夕方、磯﨑憲一郎さんが突然アトリエに。朝日新聞に連載中の文芸時評の挿入作品に、猫がいるY字路を掲載したいと。保坂和志さんの「ハレルヤ」について触れたいが猫小説だから猫の絵がいいと。

昼間はおでんが雲隠れ状態らしいが、ぼくが帰宅するとどこからともなくファーッと煙のように現れると妻は言う。

2018.8.23
 〈広いスタジオで300号大の絵を描いている。ぼくの後でピカソが、「物語的にならないように」と示唆する。何んで? 意図しなくても物語は存在する。ピカソの言葉は一体誰が言っているのだ。ぼくの無意識が語っているのかも知れないが、夢の中のピカソのセリフは本物のピカソではなさそう。抽象画にだって物語はある〉

〈知人らしいカメラマンのスタジオで、彼は大きいキャンバスに次々と大きいハケで色を塗りたくっている。実にいいかげんだけれど、この大胆さは評価しよう〉

〈何かの雑誌の付録に何十枚もの色カードがついていて、それを護符のように肌身につけていると色のセンスが良くなるという〉芸術夢三題。

例の立体作品の制作に協力してもらうカゴタニアンドカンパニーの籠谷さんと、造形作家の鈴木さん来訪。あゝでもない、こーでもないの4時間のミーティング。

2018.8.24
 美容院ピカビアのヤッさんがもう一店アトリエを持ったので、その新しい店に行く。美容院と言わないでアトリエと呼ぶのは、美容術をアートと考えているからだ。そのヤッさんが出雲大社に参って、撮った空に「竜が写った」と見せてくれる。頭をいじられている間、ほとんど眠っていた。このところやや睡眠負債をかかえている。

神戸のY+T美術館の山本さん、平林さん来訪。次回、次々回展の打合せ。平林キュレーションの次々回展は、ぼくの作品の中から「笑い」をテーマにした作品群を展示予定。笑いはぼくの中の重要なファクター。デュシャンの作品にぼくは「笑い」の原点を見る。ダダ、シュルレアリスムにも普遍的な「笑い」がある。

朝日新聞の書評編集長の吉村千彰さんからメールで、朝日掲載予定の『玉砕の島 ペリリュー』の書評が「生の体験と読書体験が一体になっていて、書評も文学だ! と実感した」という感想に嬉しいとまどい。この書評は一発でサラッと書き上げた原稿だった。

2018.8.25
 〈白いスーツの浅田彰さん(靴も白)が出演していた番組が終って、テレビ局の控室で会うが、話の内容は失念〉TV夢。

〈黒澤明監督「羅生門」の森の場面のみを再編集して短縮する〉編集夢。

N・Yの個展の作品も発送され、アトリエが空っぽ。頭の中も空っぽ。この空っぽの中から生まれる空っぽ作品に期待しよう。

2018.8.26
 朝からアルプスでココアを飲みながら日記の整理と、書評本を読む。クーラーが強かったせいか外に出ると灼熱が逆に気持ちいい。

アトリエの近くの通りにパトカーが2台、警官が10数人、異様な雰囲気。サングラスの美夫人が警官に手首をつかまれて大きい家から出て来た。一瞬病人かと思ったが、救急車はない。さらにパトカーがもう一台やって来て3台。緊急事態発生の模様。一体何があったのか。警官の数から想像すると事件? この物々しさにもかかわらず通りがかりのぼく以外に野次馬はひとりもいない。アトリエに着くなり、もう一度引返すがウソみたいに、人っ子ひとりなし。まるで夢を見ているようで、推理で頭が空廻りするだけで仕事にならない。最近の夢が現実的過ぎてつまらなくなった分、現実が夢にとって代ったのかな。

マッサージへ。マッサージ師に真昼の出来事推理に協力してもらうが、「わかりませんね」。では映画監督ならいい知恵が出るかも知れないと山田さんに電話するが、手がかりがなく、迷宮入りに終りそう。
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