常玉 SANYU 1895-1966 モンパルナスの華人画家 書評|二村 淳子(亜紀書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年9月1日 / 新聞掲載日:2018年8月31日(第3254号)

常玉 SANYU 1895-1966 モンパルナスの華人画家 書評
読者のまなざしを変化させる 
図版とことばの二部構成の意味が明確に

常玉 SANYU 1895-1966 モンパルナスの華人画家
著 者:二村 淳子、サンユー
出版社:亜紀書房
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中国・四川に生まれ、パリに赴き、かの地で亡くなった画家・常玉(サンユー)、この列島でははじめての作品集。

この華人画家をはじめて知ったとき、みずからの不明、偏狭さを恥じた。こうした道をたどる人物など、いくらでも想像できたはずではなかったか。すぐ近くの小さな列島からでも少なからぬ人たちがパリに向かい、絵を描いてきたのだ。たまたま手にしたことのある美術の歴史のなかになかったからといって、このような存在を想像できなかったとは。

目次がなく、若き日の華人画家の写真が小さく置かれる。そしてピンクの菊、裸婦、花束、犬、猫、といった絵が何枚かつづいて、これらのテーマ系をもっとまとめてみてみようとばかりに「NUDES and FIGURES」「STIL LLIFE」「ANIMALS and LANDSCAPE」と三つ、作品が示されてゆく。なかでもいちばん点数が多いのが最後、動物と風景を描いたもの。動物と風景といいながら、これらはかならずしもべつべつではない。単独に動物が描かれているものもあるけれど、ある広がりのなかに動物がぽつり、ぽつりと描かれて、両者が切り離しがたくある。

常玉の生まれは、もうすこしで二十世紀にならんとする、一八九五年。この列島の画家ならば古賀春江、活動先のフランスでいえば詩人のポール・エリュアールが、同年の生まれ。藤田嗣治より九歳年下といえば、もっとわかりやすいだろうか。先の三部からなる絵のあと、画家の生涯をめぐって、無駄のないコンパクトな紹介がある。『突然炎のごとく』をのちに書くことになる画商アンリ=ピエール・ロシェや、写真家ロバート・フランクとの交友にふれられ、短いぶん、その記されていない事実への想像がふくらむ。このあとに紙の色がピンク色に変わり、編者・二村淳子の作品へのアプローチは、絵の提示に即し、山と裸婦、静物、動物たちを、ヨーロッパの絵画と中国絵画の伝統とを対比しながら論じてゆく。一ページの簡略な年譜も同様。二十世紀という時代における中国の、ヨーロッパのさまざまな出来事が対照される。九歳年上の藤田嗣治が列島に戻った第二次世界大戦の時期、常玉はパリにとどまり毎年のようにサロン・デ・ザンデパンダンに参加する――そのようなことを東アジアの情勢に重ねてみたり。

同時代にも一見似たような絵はあるかもしれない。でも、そうした外見だけではすまない奥ゆきが、ヨーロッパ的な文脈のなかで油彩で裸婦を描きながら、そこの背後に広がり、しみだしてくる中国絵画の文脈が、編者のことばであきらかになってくる。まずは絵をみる。それから背後にあるものをことばで読み、読者のまなざしを変化させる。あまり知られていない画家だからこそ、こうした作品集の、図版とことばの二部構成を、二部構成の意味が明確に伝わってくる。

巻末ではこの列島での、また中国での受容を、衣淑凡、保坂健二郎の文章が教えてくれる。あわせて紹介しておきたい。
この記事の中でご紹介した本
常玉 SANYU 1895-1966 モンパルナスの華人画家/亜紀書房
常玉 SANYU 1895-1966 モンパルナスの華人画家
著 者:二村 淳子、サンユー
出版社:亜紀書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「常玉 SANYU 1895-1966 モンパルナスの華人画家」出版社のホームページはこちら
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