サルたちの狂宴 上 シリコンバレー修業篇 書評|アントニオ・ガルシア・マルティネス(早川書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年9月1日 / 新聞掲載日:2018年8月31日(第3254号)

サルたちの狂宴 上 シリコンバレー修業篇 書評
シリコンバレー体当たり奮闘記 
話術と文才に恵まれたIT起業家が語る

サルたちの狂宴 上 シリコンバレー修業篇
著 者:アントニオ・ガルシア・マルティネス
出版社:早川書房
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サルのイラストの表紙と、袖部分の「疾走感あふれる文章でつづる(IT)業界騒然のシリコンバレー実録」とのフレーズが印象的な本書上巻「シリコンバレー修業篇」。手に取れば、冷や汗と涙、皮肉に自虐ネタ、そして笑いを大いに交えた展開で、五行に一回はニヤリとさせられる。フェイスブックでのマーク・ザッカーバーグやシェリル・サンドバーグとのミーティングの場面など、胃が痛くなりそうな緊迫感が伝わってくるが、小さな笑いのネタがちりばめられている。

上下巻とも各章の始めには、名作からの引用、各界の著名人や賢者の名言が記されている。どれもその章の内容に関連するもので、聖書からドストエフスキー、イーロン・マスク、ラムズフェルド元国防長官などまで多岐にわたり示唆に富んでいる。直後に語られる、プライベートも含めた著者のハチャメチャ武勇伝との差もおもしろい。

著者はキューバ出身の両親を持ち、自身はマイアミで育つ。カリフォルニア大学大学院(バークレー校)で物理学の博士課程を専攻し、ゴールドマン・サックスでストラテジストとして勤務。その後シリコンバレーのWeb広告企業アドケミーに転じた著者は、リアルタイムのWeb広告システム開発に携わりながらも、ベンチャー企業養成組織の選考をパスして資金や人脈面での支援を獲得する。これを機に仲間と三名で起業を実現し、Web広告のベンチャー起業アドグロックの誕生となり、「崖から飛び降りてから飛行機を組み立てる」ようにして、手持ちの現金がなくなる前にプロダクトの売上が運用費用を上回らなければゲーム終了という世界に身を投じる。その後、前勤務先から訴えられもしたが、事業はなんとか軌道に乗り出す。ブログとプレゼンがきっかけとなって、ツイッターからは買収提案を、フェイスブックからも接触を受け、会社を売るか、仲間を売るか、自分はどうするかと悩む。自分と創業者仲間の両方が満足する結果を引き出したいと奮闘する著者の努力と結末に、読者は大いに引き込まれることだろう。
そして下巻は「フェイスブック乱闘篇」。「体制に挑むようなハッカー精神」のカルチャーに魅了されてフェイスブックに入社し、晴れて広告チーム内のプロジェクトマネージャーとなった著者。いくつものプロダクトを生み出したにも関わらず、社内政治に翻弄されて不満を募らせる。会社の利益の大幅アップにつながるイノベーションを起こそうとしているのに、従来路線を変えたがらない会社側からの支援はまったく不十分で、孤軍奮闘に近い状況となる。

広告チームの主流派が推し、既存の広告システムの延長にあたる「クローズド」な「カスタムオーディエンス」と、著者がエンジニア数名と開発中で外の世界とフェイスブックをリアルタイムでつなぐ「オープン」な広告システムの「FBX」のどちらが採用されるのか? 何ヶ月もの激論に決着がついた後の著者の行動はいかに? シリコンバレーで泥臭くも前向きに生き抜く極意が披露される。

以上、ITやスタートアップに関心がある方はもちろん、就活前の学生から、社内政治に疲れた(あるいは立ち向かう)ベテランまで、誰もが楽しめるものとなっている。ITやWeb広告などの用語については、要所要所で具体的な説明や注が加えられていて読みやすい。自分自身の人生と向き合ったり、一歩前に進んでみようかと思ったりするきっかけにもなりそうな本作。上下巻一気読みをお勧めする。(石垣賀子訳)

この記事の中でご紹介した本
サルたちの狂宴 上 シリコンバレー修業篇/早川書房
サルたちの狂宴 上 シリコンバレー修業篇
著 者:アントニオ・ガルシア・マルティネス
出版社:早川書房
以下のオンライン書店でご購入できます
サルたちの狂宴 下 フェイスブック乱闘篇/早川書房
サルたちの狂宴 下 フェイスブック乱闘篇
著 者:アントニオ・ガルシア・マルティネス
出版社:早川書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「サルたちの狂宴 下 フェイスブック乱闘篇」出版社のホームページはこちら
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