戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ 書評|(暮しの手帖社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年9月8日 / 新聞掲載日:2018年9月7日(第3255号)

戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ 書評
教科書やマス・メディアが伝えない戦争の体験記   
個人的な体験の継承が大きなテーマに

戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ
編 集:暮しの手帖編集部編
出版社:暮しの手帖社
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いとおしそうに一輪のバラを差し出している手。『戦中・戦後の暮しの記録』の表紙を見て記憶がよみがえった。『暮しの手帖』一九六八年夏号の表紙もやはり黒皮の手帖に赤いバラがそっとのせてあり、雑誌一冊まるごと読者の投稿による「戦争中の暮しの記録」で埋め尽くされていた。高度経済成長のさなか、忘れられかけている戦争を伝えようと、名編集者花森安治が発案した一冊で、通常の雑誌作りを大きくはみ出したものだった。

あれから半世紀、新たな戦争さえ予感されるこの頃、体験の継承が大きなテーマになっている。個人的な戦争体験に接することのできる時代はまもなく終わる。その危機感から花森のDNAを受け継ぐ編集者たちが『戦中・戦後の暮しの記録』を作った。副題に「君と、これから生まれてくる君へ」とあるように、戦争を知らない世代、さらに次の世代の人びとに、戦争とはどれほど残酷なものであるかを伝える記録集である。

手帖社の募集に応じて寄せられた男女の体験記二三九〇編の中から一五七人の投稿が選ばれた。文章だけでなく、写真、日記、家計簿、戦場からの絵手紙など、表現方法は多彩。体験当事者が書いたものだけでなく、子や孫の聞き書き、遺稿を家族が書き写したものもある。つまり、体験者でなくても、伝えていく方法があるということがわかる。

内容は多岐にわたる。出征する家族との別れ、学校生活、集団疎開、勤労動員、配給、空襲、沖縄戦、原爆、外地からの引き揚げ、戦災孤児や残留孤児、シベリア抑留、戦後の生活など、地域は広く日本各地から現在の北方領土までを含む。

地上戦になった沖縄で戦火に追われて逃避行後の、みじめな捕虜生活。原爆被爆後差別された自分と、福島原発事故から避難した転校生がいじめに遭う姿を重ねて心を痛める人。中国人に略奪された引き揚げを振り返りながら、戦前の満州での日本人と中国人の生活には雲泥の差があったと気付いている人もある。学徒動員で一緒に働いていた連合国の俘虜を警棒で殴った苦い記録がある。かと思えば、日本軍の捕虜になりダム工事現場で労働させられたイギリス人が日本人班長の優しさを投稿している。

女性教師の戦中絵日記が16ページにわたって掲載されている。夫の出征、食糧難、学校の宿直、わが子の成長、空襲で変貌する街などがやわらかいタッチの絵と文で描かれている中に、露店の花売りの姿がある。死と隣りあわせの日々、花にやすらぎを求めたのか。

戦後の記録もなまなましい。救護活動に挺身した陸軍病院看護婦は、終戦の日に皇居前広場で泣き伏した。陸軍重砲兵学校幹部候補生は、命令で機密書類や資材を焼いた。戦時中、硫黄島は日本軍が接収して全住民が島を追われた。島には今も自衛隊基地があってふるさとに帰れない。「だから終戦はまだきてないの」と八七歳の元住民が孫に語っている。

一つとして同じ体験はないが、多くに共通するのは飢餓との戦いで、それは戦後もしばらく続いた。「生きているのが不思議」という言葉があり、これは生き延びた人すべての思いだ。「書かれた歴史」は「書かれなかった歴史」の上に成り立っていると言われるが、ここには教科書やマス・メディアが伝えない戦争の歴史がいっぱい詰まっている。庶民の目線で記録することの大切さを改めて考えさせられた。
この記事の中でご紹介した本
戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ /暮しの手帖社
戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ
編 集:暮しの手帖編集部編
出版社:暮しの手帖社
以下のオンライン書店でご購入できます
「戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ 」出版社のホームページはこちら
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