紛争地の看護師 書評|白川 優子(小学館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年9月8日 / 新聞掲載日:2018年9月7日(第3255号)

紛争地の看護師 書評
看護師・白川優子の軌跡 
未来の「看る人」「診る人」たちの道しるべに

紛争地の看護師
著 者:白川 優子
出版社:小学館
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紛争地の看護師(白川 優子)小学館
紛争地の看護師
白川 優子
小学館
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世界各地で医療支援活動を行う団体「国境なき医師団(MSF)」の看護師・白川優子は、これまでどこで、どんな状況で、誰を看て、何を思い、そして何を見てきたのか。本書には、その軌跡が凝縮されている。

彼女は7歳の時に、テレビの番組でMSFの存在を知ったという。そして、高校卒業後に看護師の道を目指すようになった白川だが、実際に看護師になれたのは23歳の時、そしてMSFに参加できたのは、国境を超えた医療活動への憧れを抱いてから30年後の37歳の時だった。幼少期からの「初志貫徹」の道のりがここから始まる。

彼女は過去8年間に、MSFから世界9カ国の医療現場に17回派遣された。イラクやシリアなどの中東だけではなく、自衛隊が一時期活動していたアフリカの南スーダンにも派遣されている。MSF内では、「南スーダンに行かなければMSFの派遣を経験したとは言えない」というほどの過酷な環境だ。

実際、そこでは医療支援の厳しさだけではなく、戦闘現場と隣り合わせの場所で、彼女は砲撃を避けて防空壕にも逃げ込んだ。そして、飲用水が底をつき、遺体の浮いたナイル川の水を飲まねばならないほどの状況下に追い込まれていた。

彼女はシリアでの医療活動後、看護師からジャーナリストに転身することを真剣に考えたことがあった。紛争・戦争現場での患者の治療から、戦争への怒りと戦争を止める、そして伝える方を目指そうとした時期もあるという。

世界の紛争・戦争現場で、医療に携わる人たちと、報道に携わる人たちの間には、どんな違いや差があるだろうか。職責や立場の相違はあるが、私は思うに、医療はどこまでも「直接行為」「直接作用」であり、報道はどこまでも「間接行為」「間接作用」になるということではないか。いま目の前にいる、銃弾を浴びた人の弾を取り除き、血を流している人の血を止めるのは、医療行為しか方法が無い。

一方、報道は目の前の人が浴びた銃弾は取り除けない、その人の血も止めることもできない。目の前の人の背後にある状況や政治や外交、市民や人々に対して報道は届くかもしれないが、活字や映像が目の前の負傷者を直接治療するようなことはない。報道は、人間や状況を「見る」「観る」「視る」ことはできても、看護師や医師のような「看る」「診る」ことはできないと、あらためて本書を読んで悟った。

しかし、彼女が本書に記した「医療に国境はない。(中略)国、国籍、人種を超えた、同じ人間としての思い」は、報道やジャーナリズムに携わる人間も同じだと、私は信じている。

彼女は現地に派遣される前に、常に様々な迷いや逡巡を抱きつつも、看護師としてこれからも戦争・紛争現場で人間を看つづけるだろう。そこで出来得る限りの医療を人々に届けようとするだろう。運ばれてくる患者の手を握りつづけるだろう。そして、本書を読んだ人たちの中から、彼女のような看護師を目指す人もつづくだろう。

新聞やテレビの業界には、国際報道に携わる「特派員」という言い方が古くからあるが、彼女はいわば、世界各地の紛争・戦争現場へ日本から向かう「医療特派員」の職責を担っていると思う。

戦乱の下で傷ついていく人間を看て、そして生き抜いていく人間を、時には亡くなっていく人間までも、一人ひとり看つづけた日本人看護師。白川優子の行動と思いの軌跡は、未来の医療従事者、「看る人」「診る人」たちへの確かな道しるべとなるに違いない。
この記事の中でご紹介した本
紛争地の看護師/小学館
紛争地の看護師
著 者:白川 優子
出版社:小学館
以下のオンライン書店でご購入できます
「紛争地の看護師」出版社のホームページはこちら
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